名無しLv.1

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「兄ちゃん!風捕まえに行こ!」
今年小学生になったばかりの弟は、いつもどおり唐突にそう言った。
「学校でね、秋見つけましょうって言われた!」
学校の宿題か何かだということは分かった。自分のときも似たようなことをやらされた記憶がある。
「それなら落ち葉とか松ぼっくりのほうがいいんじゃないか?」
「みんなそれじゃつまんないもん!」
その気持ちは分からないでもないが少し心配にもなる。
「そもそもどうやって風を捕まえるんだ?」
ドヤッと音が聞こえてきそうな顔でビニール袋を見せてきた。スーパーとかで手に入る取手のない半透明のやつだ。
「はやく行こ!」

外へ出ると西日が目に突き刺さった。夕日から目をそらすように弟のほうを見ると両手で持ったビニール袋を頭上に掲げていた。妙に凛々しく見えて少し笑ってしまった。
「兄ちゃん、風どっちから吹くかな?」
「ちょっと分かんないな。風が吹いてから向き変えればいいよ」
分かったと元気いっぱいに返事をし弟は風を待ち構えはじめた。
僕は弟を視界に入れつつ落ち葉か何かがないか探してみる。教師はいつだって例外を嫌う。自分と同じように傷つくかもしれない。落ち葉一枚で回避できるのなら探さない理由はなかった。
一陣の風が吹いた。街路樹から枯れ葉が巻き上げられ目の前に降りそそぐ。目についた赤色の紅葉を手に取った。湿っていない、調度いい状態だ。
「兄ちゃん!風捕まえたよ!」
膨らんだビニール袋を自慢げに見せてきた。風で冷えたのか鼻の辺りが少し赤くなっている。
「ついでにこれも入れておきな」
「もみじ?なんで?」
さっきの風で捕まえたと言うとすごいすごいと喜んで受け取ってくれた。

11/15/2024, 7:53:46 AM