【好き嫌い】
同性の子を好きになった。
名前はえなちゃん。黒髪ショートでちょっと天然な所があるクラスメイト。
趣味が似ていたのもあって、すぐに「親友」に近い存在になった。
ある日、えーちゃんから相談があると放課後、誰もいない教室に呼び出された。
「あたし…告白された。返事はまだ、してない」
聞けば相手は「王子」と呼ばれるバスケ部のエース。
超がつくほどのイケメンだし、強豪バスケの大学からも推薦を貰っている。
性格も神のような人だから本当は応援してあげたい。
だけど…だけど…。
「私は…えーちゃんが後悔しないなら、付き合えばいいと思う」
悩んだ末、当たり障りのない返事をした。
「…分かった、ありがとう」
えーちゃんは少しだけ寂しそうな、どこか悲しそうな表情を浮かべながら教室を足早に出て行った。
一方で私はというと、色々な感情がぐちゃぐちゃに渦巻いてその場から動けなくなった。
「…ごめん、えーちゃん。私…応援できないや」
この件以降、えーちゃんとは段々と疎遠になり、卒業後は自然と連絡を取らなくなった。
―――数年後。
仕事から帰ると家電にえーちゃんの母親から留守番電話が入っていた。
なんだろう、珍しいなと思いながら再生ボタンをポチッと押した。
十秒程の沈黙。重々しい雰囲気が電話越しに伝わってくる。
「…えなの母です。突然ですが先日、えなが…死にました。…自殺、です」
「遺書とは別に、あなた宛の封筒があったので昨日送りました。内容は読んでません。近い内に届くと思うのでどうか読んであげてください。葬儀については…また連絡します」
数日後、「さっちゃんへ」というえーちゃんの字で書かれた封筒が届いた。
中には数枚の手紙が入っていて、所々文字がじんわりと滲んでいた。
内容は感謝の言葉や謝罪の言葉、疎遠になってしまって悲しかったことなど、私に対するえーちゃんの想いがぎっちり詰まっていた。
そして最後の1行。
何度も悩んで消したような跡。
「さっちゃんのことが本気で好きだった」
手紙を読み終える頃には涙が溢れて止まらなくなっていた。
あの日、ちゃんと伝えていれば。ちゃんと連絡を取っていれば。
何か、変わっていたのかもしれない。
…私は、自分の心に正直になれなかった自分が嫌いだ。
6/13/2024, 8:46:38 AM