あじさい
あじさいは、土壌が酸性では青、アルカリ性ではピンクになるといわれている。この性質をいかしたミステリーものを、何回か見た記憶がある。
要は、あじさいの下に死体が埋まっていて、そこだけ色の違うあじさいが咲いている、というものだ。
それから、色が変わる、ということから心変わりする、人間関係が変化するという象徴にもよく使われる。
当のあじさいは、そんなことに使われているのもいちいち気にはしないだろうが。
あじさいの花びら(正確には萼が発達したものらしい)の瑞々しさと、ミステリアスな物語の対比。何度も創作に使われるのはこういうところに魅力があるのかなと思う。
という話を年上の彼女にした。
コーヒー淹れたよ。 彼女がカップを運んできた。
ありがとう。 僕が手に取ろうとすると、
ちょっとまって。 と言って、スプーンでブラックコーヒーをかき混ぜて、生まれた渦の中にミルクを流した。
僕、ブラックでいいんだけど。
ほら見て。茶色に変わったよ。
うん、わかるよ。
色、変わったよ。
うん。
いろ、変わっちゃったね。 彼女が虚ろな目でつぶやいた。
な、なに?なんですか。どうしたの?
……プリン。
あっ、と思わず声が出た。忘れていた。こっそり食べたから後で買い足しておこうと思っていたのだが。
彼女は、今度は自分のカップをかき混ぜて、ミルクを入れようとしながらこっちを見た。
私のも変わっちゃうよ。ほら。いろ、変わっちゃうよ。もしかしたら、私の心も……。
ごめんなさい、ごめんなさい。す、すぐに買ってきます。
6/13/2024, 10:45:45 PM