突然の君の訪問には驚いた。
数年前、夢を叶えるために修行してくるという置き手紙を残してどこかに行ってしまった君は、音信不通だったこともあり、もう二度と僕のところに帰って来ないと思っていた。君の将来の夢も知らなかった僕は、君が今どこにいるのかも、何の修行をしているのかも分からなかった。どうやら君は歌手を目指して歌の修行していたということに気づいたのは、つい最近の話。SNSでバズったのがきっかけで一躍有名になった大ブレイク中の歌い手・レイは、顔出ししていないため関係者以外は正体を知らない。だが、どこか聞き覚えのある声に加え、雑誌のインタビュー記事に載っていた「私は友人に修行してくるという旨の置き手紙を残して以来、友人に会っていないんです。修行してくると伝えただけで、歌手を目指していることは伝えてません」「いつか俺の友人が好きなアニメの主題歌を歌って、友人を驚かせてやりたいです」という文言が引っかかっていた。だから、レイの動画のコメント欄に、「レイが置き手紙を渡した友人って、もしかしてアニメが好きで、夏休みにレイと二人でアニメの聖地巡りをして、帰ろうとしたら電車がトラブルで運転見合わせになってて、運転再開するまでの暇つぶしでボウリングにいってみたら結構盛り上がって、気づいたら夜になってた思い出のある同級生だったりする?」と、君と僕しか知らないことを書き込んでみた。その3日後にレイ本人であり置き手紙の差出人である友人の君が僕の家に突撃してくるとは思わなかった。
「まさかもう正体がバレるとは」
そういって笑う君の顔はあの頃の面影を残しつつ、昔よりも少しだけ大人びていた。僕も頑張らないとな。僕の夢はアニメーター。いつか君が主題歌を務めるアニメの作画を担当して君を驚かせることが、今の僕の夢だ。
8/29/2024, 4:51:54 AM