「周りをぐるりと見てみなさい。どう思ったかね?」
博士はふと手を止めて僕に聞く。
こんなやり取りは慣れっこだ。
博士は暇なときはいつもこうして僕に同じ疑問を投げかける。
デジャヴって奴だ。
「ほれ。」
…拒否権はないようだ。大人しく周りを見回す。
「なんか、不思議な物がたくさんあるなぁ…と。」
「ふむ。例えばどれが不思議なんだい?」
「……これ、とか。」
指を向けたのはずっと前から気になっていた大きなクリップに鳥の遺伝子を配合させたような、気味の悪いもの。何に使うのだろうか…触れたくもない。
「これか。」
「ぁあ……」
後ろには眼球モドキまでついているのか!
「博士、これは何なんですか…。」
この質問も何度繰り返されたことだろうか。
博士がすっと目を閉じる。
博識な博士の雑学込みの解説タイムだ。
……が、博士の口から得意げな「説明しよう。」は聞けなかった。
「…世の中には、知らなくても良いこともあるのだよ。」
「………そうですか…。」
これ以上は、何も聞かない。
互いに何も追及しない。
やがて静かな不規則な執筆音が沈黙を心地良いものに変えてくれるだろうから。
3/6/2025, 8:28:28 AM