CICADA

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嫌な音だ。
窓を無数の小さな手で叩くかのような叩きつける雨粒の音、恨めしげな叫び声にも似た暴風の音、暴風に煽られた車体がガタガタ、ギシギシと軋む音…

嫌な音だ、本当に。
改造されたコンテナでは僕と同じ空間に4人ほどの仲間が静かに寝息を立てている。
そのせいで、唯一の安心要素のはずのそれが外からのノイズに掻き消されてしまって、僕は皆と一緒の空間にいるはずなのにひとりぼっちのような錯覚に陥る。

かと言って誰かを起こす訳にもいかない。それに、大の大人が嵐の音に不安になっているだなんて、恥ずかしすぎて誰にも言えない。

そうして途方に暮れていると、隣で寝ていた相棒が寝返りを打った気配がした。
藁にも縋る気持ちでそちらを向くと、彼はまだ半分ほど微睡んでいるような表情のまま手を伸ばしてきて、僕の頭にぽんぽんと優しく手を置くと、数回ゆっくりと撫でた。

突然のその行動に驚いていると、彼は
「だーいじょーぶ、おじさんがついてるからなー…」
と言いながら、再び目を閉じて夢の中へと戻って行ったようだった。

彼は時々僕の不安や恐怖を的確に見抜くことがある。
それはまるで僕の心の中を直接覗き見ているかのような的確さで、彼に隠し事はできないのではないかと思うこともある程だ。

だから、そんな彼の隣にいれば今夜のような荒くれる嵐の夜も、今僕が落ち着いているように、彼の言葉通り、大丈夫になるのだろう。
この先も、ずっと。

7/30/2024, 9:03:04 AM