シシー

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 振り返りながら髪を耳にかけて微笑む、ただそれだけで可愛いと言われる時代は終わってしまった。

 CMや漫画などでよく見る仕草であるのも頷けるくらい魅力的なワンシーンだ。まあ前提条件に美少女であることが付け加えられるわけだが、若さがあればどうとでもなる。
 青春真っ盛りで、自分自身がヒロインだと心の底から思える無敵メンタルは10代までの特権だと思う。だからこそシンプルな仕草だけでキラキラと輝くのだ。一切の邪念や諦念が混ざらないその純粋さが一番の宝石である。

「気持ち悪いこと考えてる暇あったら働けー」

 気持ちは分からんでもないけどね、とバイト仲間のおねーさんは肩を竦めた。
言葉遣いは荒いが面倒見のいいまさにおねーさんである。メイクもオシャレもこの人から教わったし、汚客対応の極意までしっかり叩き込んでくれた最高のおねーさんだ。

「そっか、もうすぐ成人式か。メイクしてあげようか」

 楽しげに振袖の色や髪型やアクセサリーはどうだと尋ねてくるおねーさんに、私は苦笑するしかない。

「…もしかして参加する気ない?」

 はい、と答えて視線を泳がせた。振袖のレンタルもできるくらいには余裕はあるし、多くはないが中学時代仲が良かった友人もいる。だからこそというか、過去の自分を覚えている人に会いたくない。

「なになに?悪いことでもしたの」

 悪い顔をしながら、これまた楽しそうに聞いてくるのでどう説明したものかと逡巡する。結局、黒歴史があるんです、としか言えなかった。内容は絶対に言えない。

「アタシも参加しなかったし大丈夫、大丈夫」

 何か察してもらえたようで励まされた。でも何を想像したのか、とても生温かい目でみられるのでいたたまれない。
 その日は一緒に飲もうかと誘われたので、お高いやつ飲んでみたいです、と答えた。贅沢者め、と笑って流してくれるおねーさんが本当に大好きだ。


 黒歴史が、勘違いブスの暴走、なんて知られなくない。
 めちゃくちゃ恥ずかしくて記憶を消したいよ。



                  【題:20歳】

1/11/2026, 7:51:32 AM