やさしくしないで
強い衝撃と同時に身体の内部で骨が折れる嫌な音が響く。無重力からすぐに地面に叩きつけられ、肺の空気が全て押し出され、朦朧とした意識のまま、眼球だけを必死に動かす。
車から出てきた男達のうちの一人が中腰になって、肩を叩いてこちらの反応を伺う。
「ちっ、しけてやがる」
抵抗しないと確認したら身体から何かを漁り、ポケットに入っていた自分の黒い財布を開き、目の前で札を抜き取っていく。
給料日に引き落とした金を奪っておいてしけた、と言われ心中に煮え滾るような怒りと悲しみが湧いたが、次の瞬間には男は視界から消え去り、怒号や焦りの声の中、覚えてろと言い残しながら車が急発射して去っていく。
それを視線の端で傍観してると、今度は土埃を顔に浴びせながら立ち止まった汚い革靴の上から男の声が降る。
「おい大丈夫か」
「大丈夫に見えますか。これ⋯」
「ああ」
さっきの事が何も無かったように起き上がり、血だらけになった服ではなく顔にかかった埃だけを払い、居座り直しながら男の返答に不満そうに半目で睨見つける。
「金は、取り返せなかった。すまん」
助けてもらった上に金のことを申し訳なさそうに謝る男に、口を真っ直ぐにして閉口する。
「いや、こちらこそ──有難うございます、」
「んん。そうか。ならこれは貸しだ。お前はちゃんと護身術くらい身に付けとけよ」
あまりにもな態度にあっけらかんとしていると、肩を叩かれまあよかったと言い、男はそのまま夜の街へ去っていった。
2/3/2025, 3:17:15 PM