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『 実録 』


「あ、紫陽花だ」

 梅雨の六月。余りにも、知的好奇心を持て余していた小学生の頃の話。私はその頃友達と共に通学路を歩いていた。公園が近くにあり、早い時間にすぐ帰る事が出来る水曜日等ではよく立ち寄った。その日も水曜日で、蒸し暑さに少し顔を顰めながらに、公園のブランコで休憩していたのだ。紫陽花が少し萎れつつも咲いているのを見て、友達と咄嗟にそう述べた記憶がある。血のようにも見える程綺麗な赤が映えていて、それが少し恐ろしかった。

「ね、知ってる?紫陽花が赤色から青くなったら、下に死体が埋まってるんだって」

 小学生という物はこっくりさんやチャーリーさんと言った降霊術をよくやりたがる程、非現実的な事を好む物だ。だからこそ、私はあの時友達にあんな事を伝えたのだろう。友達は怖がる訳でも面白がる訳でも無く、「スン」というオノマトペが良く似合う音がない顔をしていたのだ。それが何故か恐ろしいように感じられ、あはは、だなんてわざとらしく、かつ誤魔化すように笑っていた。

「それ、絶対嘘だよお」
「ええー、そんなことないって」

 嘘だ、と私の言った事を否定した彼女は、あの顔をやめていつものようにニコニコと笑う。そうだ、彼女はいつだって笑顔だった。そんな彼女があんな真顔だったからこそ恐ろしかったのだろう。雨水に濡れ、ぽたぽたと水を滴らせる花弁を見詰め、葉の上をテンポを遅くさせて歩くでんでん虫を、分かりやすく煙たがった彼女。そんな彼女はこのざーざー雨の中で、ぽつりと呟くような声量でこう述べる。これが聞こえたのは、何故かはわからない。

「これ、青くなってないもん」

 それを聞いた途端、実物を見た事もないが、私の顔は、その「死体が埋められた紫陽花」のように青くなっていたのだろうと思うのだ。

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あの時は、冷や汗が止まらなくて、すんっっごく、その子に怯えましたね。その後日は、普通に接してきたんですけど私は無理で空笑いしてました。

6/13/2023, 11:40:59 AM