『たとえ間違いだったとしても』
君を見かけたのは、市立図書館の窓際の席だった。
大きな窓から差し込む陽を静かに浴びながら、文庫本を読んでいた。
長い髪がさらりと机に垂れてカーテンのようになっている。廊下側の髪は丸く綺麗な形の耳にかけられていて、横顔が晒されている。
同じクラスの物静かな人。
いつも本を読んでいて、運動は少し苦手らしい。
鎖骨まで伸びた真っ直ぐな黒髪が綺麗で、すれ違うとふわりと甘い香りがする。
僕は彼女に気づかれないように、同じテーブルに腰かける。借りようと思っていた本を開いて、読むふりをしながら、彼女を観察する。
真面目な彼女はスカートは膝下で、ソックスもちゃんと伸ばして履く。
みんなはスカートとソックスが繋がってダサいと言うが、校則を守って派手さのないところが僕はむしろ好きだった。
本のページが細く白い指先でゆっくりと捲られる。
ぱらり、という乾いた紙の音がして、彼女の視線が合わせて動く。
耳にかけられた髪がだんだんとゆるみ、するりと顔にかかる。
本を抑えていた右手が顔元に近づき、顔を覆う髪を柔く耳にかける。
形のいい耳がきらりと光る。
シルバーが1つ、耳たぶで輝いていた。
あ、これは……。
視線に気づいたのか、彼女が顔をあげる。
僕と目が合って、少し驚いた顔をしてから固まる僕を見つめる。
「ねぇ、それ、いつ開けたの?」
僕は自分の耳に触れながら聞いた。
「……ずっと前に」
少し間があって、彼女が答える。
「校則違反? 意外だね」
真面目な彼女の思わぬギャップに、僕はなんとも言えない気持ちになった。
背徳感、とでも言うのだろうか。知っていけないことを知ってしまったように感じた。
彼女は人差し指を唇に当てて、微笑んだ。
「ないしょ」と柔らかそうな唇が動いた。
そのピアスは、いつ、誰に、何のために開けられたものなのだろか。
もしや、恋人とお揃いなのだろうか。
たとえ間違いだったとしても、僕の密かな恋は終わってしまったのだろう。
ピアスに触れる彼女は見たこともないほどに優しく、幸せそうな表情をしていた。
僕は知っている。
それは、恋をしている人の表情だった。
2026.04.22
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4/22/2026, 3:47:48 PM