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    「ずっと隣で」


図書室に着いた俺は今日の昼休みでのあいつの顔を思い出していた。
あんな顔、するんだなぁ…
当たり前と言えば当たり前で俺の知らないあいつのほうがむしろ多いだろう。
多分他人には見せたくない自分であっただろう。
人は距離が近づけば近づくほど醜い本性を相手に見せてしまう。それを受け入れること、もしくは諦めることもあるだろう、そうやって永い年月を過ごすことができるのが夫婦というものなのだろう。
ただ、学生の自分達にとってそれはハードルが高く故に、
カップルであればすぐに別れるだろうし、友達と思っていたものが距離をおかれはみ出されてしまうこともある。
俺が一度だけした告白…俺は彼女のことをもっと知りたかったし、もっと近づきたかった…自分の欲望を彼女にさらけ出したのだ。
「友達以上には見れない」
彼女は俺の欲望に嫌悪したのだ…これ以上あなたのことを知りたくないし、近づきたくないと…
俺はそれ以来、人との距離を一定に保つことを決めた。
近づかなければ勘違いすることもないし自分の欲望をさらけ出すこともない。
上辺だけの友達、人間関係、大多数の人が忌嫌うかもしれないがそれが一番みなやっていることであり普通なことである。
ただ唯一違うのは、俺はそれを俺に関わる全ての人に対し行うと決めたことだ。
だから俺は歩き出すことを止めた…

そんな俺にいつしかおかしな後輩がまとわりつくようになった。
あいつはひとつ下の学年だが学校ではそれなりに人気がある。いつも明るく元気で人当たりもよくおまけに可愛いと評判だ。俺のクラスの連中も告白がどうとかなんとか話してるのを聞いたことがある。
最初のうちはそんなやつからちょっかいを出され挙げ句に俺の隠れ家まで発見されおもしろおかしくからかっているだけなのかと思っていた。
そして一方的に近づいて来るあいつに嫌悪すら感じた。
あいつと会う回数が増え、会話することが増え、俺に好意を持っていることはなんとなく感じた。
ただ不思議だったのは、あいつは屋上で会うとき普段とは違い会話をするわけでなく俺にちょっかい出すわけでもなく、隣に座りいつも寝ているふりをしていることだった。
あいつもこの空間を心地良いと感じているんだろうか…

そんな日々を過ごすうち俺はいつしかあいつとの空間が距離がとても心地よく感じるようになっていた。

「ヤダ!」
その声を、その顔を見た瞬間俺は全てが壊れてしまう気がした。
壊したくない!これ以上あいつに距離を近づけさせてはいけない。なんとかしないと…

時計を見るとすでに部活が終わる時間となっていた。
考えは全くまとまらずどうすればいいのか分からない。

「ガラガラ」
戸が開く音が聞こえた瞬間とっさに寝たふりをしてしまった。
甘い花のような香り…あいつが隣に座ったのが分かる。
完全に起きるタイミング逃した…

「先輩…好きです…」

言われてしまった…言わせてしまった…

隣に座るあいつの思いに俺の心は揺れ動き始めた。



3/13/2023, 2:14:34 PM