『寒さが身に染みて』
冬の寒さに腹を立てるぐらいには寒がりなので冬場に天体観測をやるやつの気がしれないと思っていたのに高校生になってからできた友達の趣味が天体観測だった。
「冬でもやるのか」
「冬でもやるよぉ。今度一緒にどう?」
なんとなく断りきれず、一緒にやることになる。
君は初心者だから、ということでそいつの家のベランダが今夜の観測場となった。真冬の寒さが早速身に染みて震える。早速帰りたくなったがそんな薄着だと寒いに決まってるでしょ、とカイロや上着をこれでもかと渡された。よくよく見るとめちゃくちゃに重ね着をして着膨れている。同じような体型になってみるとなんとか耐えられそうな気がしてきた。きょうは新月で月明かりがなく、星が見えやすいらしい。星座早見盤や天体望遠鏡を自前で持っているそいつの話には神話や最先端の技術のことが織り交ぜられていて理科の授業で習ったときよりも数倍面白かった。もっとちゃんと勉強していればと思わされる。
「今からでも遅くないよぉ。一緒に沼らない?」
なんとなく断りきれず、次の約束をしてしまう。帰り道にカイロを握りしめながら感じる真冬の寒さは相変わらず身に染みて震えたが、あまり腹が立たなくなっていた。次の天体観測までにもう少し厚手の靴下や上着を手に入れないといけない。
1/12/2024, 4:05:28 AM