作品21 距離
少しだけ。ほんとに少しだけ、この世界は私には生きづらかった。
好きなものを好きだと言うと子供みたいと言われ、嫌いなものを嫌いと言うと変だと笑われ。そういう、どこにでもありふれている些細なことが、ちょっと苦しかった。
だから、好きなものはみんなに隠して距離を置いて、嫌いなものは理解あるフリして必死にまともに振る舞った。みんな、そういうのを当たり前にやっているから、ちゃんとみんなに合わせてその通りにした。結構頑張った。
たぶん、それが駄目だったんだろうな。
いつもより帰るのが遅くなったある日。家に帰って一人になると、体から力が抜けて、気づくと涙で顔が濡れていた。袖で目元を拭くが、全然止まらなかった。
その日から毎日、一人になると泣いてしまうようになった。
私には宝物がある。宝石みたいな髪飾りがついてる、陶器でできた小さな人形だ。とっても大事で大好きな物だ。けれどこの好きは、周りの人には理解されなかった。
私には怖いなものがある。恋をすることだ。私の恋は、正常な人からするとおかしいらしい。理解されることなんて、おそらく一生ない。間違えて気持ちを伝えてしまったりなんてしたら、相手を傷付けることになる。その理由は言えない。だから深く語らず恋が嫌いと言っていた。そしたら、おかしい人ってレッテルを貼られた。
そういう、ほんとに些細なことが、ちょっとだけ耐えきれなかった。
今日も泣いた。
嫌なことはなかった。強いて言うなら、恋をしてしまった。昔も恋してあんなに傷ついたのに、懲りないな。あははって、一人で乾いた笑い声を鳴らす。
いいことは、あるわけない。泣いてしまったあの日からずっと、起きてない。
また、さっき止まったはずの涙がまた出てきた。涙を止めようと上を見る。窓の外から夜空が見えた。
星が宝石みたいにキラキラして綺麗だった。そのまま、なんとなく星に手を伸ばすけど、遠すぎてとどくはずがない。
とどいたらな。星との距離が近かったら、どんな願いも叶いそうなのに。
毎晩寝る前に、まともになれますようにって、願ってる。叶ったことなんて、一瞬もないけど。
なんかもう、願うのも、まともになろうもするのも、好きを隠すのも、嫌いを抱き続けるのも、私を隠すのも、全部疲れたな。
なんか、もう、いっか。
窓をガラガラと開ける。外の空気は思った以上に冷たかった。
ベランダの柵に足を置く。高さ的にどうなるかはわからないけど、どうなってもいいや。
身を乗り出す。あ、待って。最期に見るなら星がいい。空に向かって飛ぼう。
飛び越える。部屋の中が少し見えた。なぜだか、部屋に飾っている宝物が泣いてるように見えた。
体がふわりと軽くなる。星が、今まで見た以上に輝いて見えた。流れ星が、みえた。
地面が近づく。なんでだろう。今までで一番、息がしやすいかもしれない。
嗚呼、私は今とてつもなく幸せだ。
体中が熱く、痛くなった。
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作品10 宝物
作品11 どうすればいいの?
の人が出てきます。
12/1/2024, 3:05:12 PM