久住弥生

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店の前の小さな花壇には、紫の花が咲いている。咲き始めた頃に名前を聞いたが、もう忘れてしまった。
建物の間からホースを引っ張ってきて、一彰(かずあき)が花壇に水をやると、花の中から白い蝶が出てきて、逃げていった。
「あれ、一彰くん、今日出勤だっけ」
店主の綾(あや)が、買い物袋を両手に下げて帰ってきた。
一彰はホースの先を一旦花壇の脇に置くと、店のドアを開けた。カランコロンカラン…
「持ちますよ」と荷物を半分受け取って、キッチンへ向かいながら、一彰は話を続けた。
「午後休講になったんで、席空いてたら課題やらせてもらおうと思ってきたんすけど…」
「あら、それはありがたいわね、夜に急な予約が入って困ってたとこよ」
綾のしたり顔を横目に、一彰は苦笑した。
「同じこと、洋介(ようすけ)さんにも言われたとこです」
その洋介はへへへ、と笑い、こちらをちらっと見ただけで、仕込みをする手を止めず言った。
「綾ちゃんおかえりー、今のうちに休憩しておいてね」
「洋介さんこそ、ちゃんと休んでよね、もう若くないんだからさー」
ここにいるのは場違いな気持ちがして、一彰はそそくさと店先へ出た。
カランコロンカラン……
ホースを片付けようと伸ばした手の先から、今度は2匹蝶がひらひらと踊るように飛んでいった。
二人みたいだな、と思いながら、一彰はしばらく蝶を見送っていた。


#モンシロチョウ

5/11/2026, 7:15:51 AM