かたいなか

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最近最近、都内某所のおはなし。
生活費(主に食費)の節約術の結果として、低糖質低塩分食に行き当たった雪国出身者の、名前を藤森と言いまして、今回のお題回収役。

要するに、たくさん品数を作るから、
個々の味付けで塩分と糖分と出費が重なるのです。
ひとつの料理に味付けも食材も集約すれば、
塩分も糖分も、食材費も少なく済むのです。
結果として、低糖質低塩分、食費節約。
藤森はこの方針で、■■年の東京を生きています。

ところでそんな藤森のアパートは、まぁまぁ、フィクションふぁんたじーな物語ゆえの醍醐味で、
近所の稲荷子狐から異世界組織の職員、
それからガチャのために生活費を節約したいシェアディナー&シェアランチ希望の後輩まで、
チラホラ、何度かご来店……もといご訪問。
今回のお話はそんな彼等に食材調達を頼む藤森のおはなしを、ひとつご紹介しましょう。

雨で涼しかったある夜、藤森のアパートに、
善き化け狐、偉大な御狐となるべく絶賛修行中の、餅売り稲荷子狐が、コンコン、遊びに来ました。
藤森は餅売り子狐の、いわばお得意様でした。

「おとくいさん!おとくいさん!」
コンコン子狐、大好きな絵本を示して言いました。
「このえほんの、コレ、つくって!」
そして子狐、代金のつもりの500円を、かわいいお手々で藤森に差し出しました。
「このごちそう、おとくいさん、つくって!」
どうやらおなかがペッコペコの様子。
子狐が所望したのは、きりたんぽ鍋でした。
「おねがい、おねがい、ごちそう、つくって!」

今の時期、鍋料理の素なんて、あるかしら……?

「鶏肉と、糸こんにゃくを買ってきてくれ」
さぁさぁ、お題回収。 1人用炊飯器の中身を冷ましながら、藤森、子狐にお願いしました。
「きりたんぽと、スープは私が準備しておく。
良いかい。若鶏のお肉と、糸こんにゃくだ。しらたきでも良い。それを買ってきてくれ」

「わかった!」
「約束だよ。やわらかい、若鶏だ。それから糸こんにゃく、あるいは、しらたきだ」
「わかどりと、いとこん!キツネ、おぼえた!」
「何度も言うようだが、親鶏ではないし、角こんでもない。 頼んだぞ。約束だよ」
「おぼえた、おぼえた!いってきます!」

くぅくくく、くわぅ!くわぁ!
さっそく稲荷子狐は、狐耳も狐尻尾もしっかり隠して、人間の子供に化けまして、
藤森のアパートの近くの地域密着型スーパーへ。

「おにく、こんにゃく、おにく、こんにゃく、」
馴染みの店員さんから小ちゃい買い物カゴをもらって、精肉コーナーへ向かいます。
「おにく!とりにく!わかどりにく!」
まずは鶏肉をゲットしましょう。子狐が鶏肉のスペースを見ると、なんと半額お肉が残っています!
半額鶏肉お肉には、こうラベルされていました。

『奉仕品 国産 親鶏もも 切り身 425g』

「もも、り、サンキュッパ、G?」
子狐はまだ子供なので、「親鶏」が読めない!
そもそも「親」が「おや」と分からない!
「やすい、やすい、それに、いっぱい……!
おにく、たっぷり、はんがく、おにく!」

やった、やった!コンコン子狐は大喜び!
約400gの親鶏もも肉の切り身を確保して、
ぴょーんぴょーん、幸福に帰ってゆきました。
……あれ、糸こんは? しらたきは??

「ただいま、ただいま!おにく、買ってきた!」

「随分、多く、持ってきたな……」
親鶏もも肉のラベルを見た藤森です。
子狐が買ってきたのは、「約束だよ」と言っていたハズの物ではありませんでした。
なんなら糸こん、子狐しっかり忘れていました。
「良いかい子狐。これは、親鶏だ。けっこう、その、歯ごたえが、あるぞ。 それでも良いか?」

まぁ、たしか親鶏の方が、若鶏より良いダシが出るらしいし。固い肉質は鶏団子にすれば良いし。
藤森すぐに修正案を考えました。
「おやどり? これ、おやどり?」
子狐はちょっとだけ、しまった、と思いましたが、
藤森はちっとも怒らなかったし、なにより1人でお買い物できたことを、ちゃんと褒めてくれました。

「鶏団子を作ろう。子狐、手伝ってくれ」
「とりだんご!とりだんご!キツネ、てつだう!」
約束だよと言って送り出した子狐は、約束の若鶏と糸こんを買ってきませんでしたが、
どっさりの親鶏もも肉のおかげで、良いダシの良いきりたんぽ鍋が、幸福に、完成しましたとさ。
おしまい、おしまい。

6/4/2025, 5:07:51 AM