「小さな幸せ」
去年の春、桜並木の途中にある小さな公園の片隅で
10cmほどの桜の枝の先を拾った。
その短い枝に、桜の花はちょうど十、ついていたけれど
花びらはどれも悲しげに顔を伏せているかのように
寂しくしおれていた。
私はなんとなくそれを拾い、鞄にそのまま入れて
電車に乗って帰宅した。
家に着いてその小さな桜の枝を取り出した頃には
桜の枝はノートと鞄の間にやわらかく挟まれ
更にぺしゃんこの可哀想な姿になっていた。
私はジャムの空き瓶に水をたっぷりと入れて
その小さく可哀想な桜の枝を活けてみた。
たった数分のできごとだった。
たった数分で、その桜の枝は再び命を取り戻し
生き生きとふっくらとした薄桃色の花を輝かせた。
全ての花びらがしっかりと意志を持ち
ジャムの瓶の上で全力で咲き誇っていたのだ。
私はその小さな桜の枝の「生きよう」とする姿に
素直に感動していた。
春が来るたびに、
私はこの小さな幸せを思い出すだろう。
これから美しく咲いていく桜の花、
そしてそれらを見る誰かの心に
小さな奇跡が起きるよう願っています。
〜fin〜
3/29/2025, 1:29:01 AM