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やわらかな光が差す庭の一角には
季節の花を植えた花壇がある。

この時期は、秋桜、ケイトウ、カルーナ等が植えられている。
これらの花は、花壇の持ち主である彼女のお眼鏡にかなった物たちだ。
花々が織りなす、赤やオレンジ、ピンク等、暖色の洪水は見事なもので、庭の一角が華やいで見える。
見事な作品と言っても過言ではない花壇は、彼女一人で管理している。

「花壇が欲しい」と彼女がおねだりしてきた時は、二人で花壇を作っていくはずだった。
それなのにそうならなかったのは、俺が植物を枯らしてしまうからだ。
あまりに枯らすので、お試しとして育てやすい鉢植えのミントを一人で育ててみたことがある。
育て始めて2、3日はキレイなミントグリーンをしていた。それなのに、何がどうなったのかミントグリーンの面積は減り、茶色い葉が侵食していった。
茶色い葉をこまめに取り、水や栄養もしっかりとあげて手入れもしたというのに、努力虚しく呆気なく枯れてしまった。
カッサカサになったミントの姿は痛々しく、今思い出しても胸が痛む。
枯れた俺のミントを見て、気まずそうな顔をした彼女の顔も忘れられない。

俺は、植物を育てる才能がないのだ。

今でも育ててみたい気持ちは、あるにはあるのだが、植物が枯れる姿はなかなかしんどい。
なので、花壇は緑の指を持つ彼女に任せてしまっている。

彼女の庭仕事を見たことはあるが、どうしてそうなるのか理解できなかった。

彼女は、雑草をこまめに取ると、枯れた葉や傷んでいる茎などは容赦なくザクザクと切ってしまう。
あまりに容赦がないので、枯れてしまうのではと心配になるほどだが、彼女の手にかかった植物は数日もしないうちにみるみる元気を取り戻し、艷やかな緑になっていく。
俺がやったら絶対こうはならない。手入れしたところからあのミントのように枯れていくのが関の山だ。

彼女と俺の手入れの何がどう違うのか、サッパリ分からない。なので、彼女は類まれな才能の持ち主なのだと思うことにしている。

緑の指を持つ彼女は、今日も庭に出て植物たちの手入れをしている。

開け放たれた窓から時折、彼女の鼻歌が聞こえてくる。麗らかな陽の下、彼女はたいそうご機嫌なようだ。

花壇の手入れに関してはたいして役に立たない俺だが、今日は手伝ってみようか。
今日こそは何か手入れのコツを発見できるかもしれない。

俺はご機嫌な彼女がいる庭へ向かった。

10/16/2023, 11:23:45 AM