Stories

Open App

勿忘草(わすれなぐさ)

『優しい嘘』

トントントン
冬爾「冬爾です、失礼します」
僕は茜先輩がいる病室に来た。
扉を開けるとそんなに広くない1人用の病室のベッドに茜先輩は座っていた。
僕は今日茜先輩に告白をするつもりで来た。
茜「こんにちは、今日も来てくれたんだ、ありがと」
茜先輩は優しく笑いかけてくれた。
冬爾「はい、毎日来ます」
そう言って、僕はベッドの横の椅子に座った。
茜「でも大丈夫なの?もう高校3年生だから受験勉強大変でしょ」
冬爾「大丈夫です!さっきまで勉強してこのあとも勉強する予定です、息抜きで来ているのでむしろありがたいです」
茜「病人なんかと会って息抜きになる?」
冬爾「はい、茜先輩と会えるだけで楽しいので」
茜「そう、、、」
冬爾「早速なんですが今日は言いたいことがあって来ました」
茜「うん、、なに」
どこか不安げがあるようだけどほころんだ笑顔で優しく聞いてくれた
冬爾「あの、僕は茜先輩のことが好きです、今は無理でも茜先輩が退院したらいろんな所にいきましょう、だから僕と付き合ってください」
沈黙
茜「、、、ごめんなさい」
こうなることは予想していた、茜先輩はすごく美人な人だから僕みたいな人よりも良い人を選ぶだろう、もう選んでるのかもしれない。
でも分かっていても実際は辛かった。
冬爾「そっか、そうですよね」
涙をこらえながら言った。
茜「もう、来なくていいよ」
冬爾「えっ」
僕は耳を疑った。
もうこれ以上やめてくれ。
茜「もう、ここには来ないで」
あのいつも優しい茜先輩は優しくない声で言った。
僕は絶望した、もう茜先輩と会うことができないと考えただけで胸が苦しい。
しかし理解した。
僕は茜先輩に嫌われたんだ。
告白なんてするべきじゃなかったんだ。
冬爾「すみませんでした」
喉が締め付けられるような感覚に陥ったが振り絞った声で言った。
茜先輩には聞こえなかったかもしれないほど小さな声だった。
僕は病室を出ていった。
僕は泣いた、ひたすら泣いた。


1ヶ月後
あれから僕は茜先輩と会っていない。
あんなことを言われて茜先輩に会いに行く勇気はなかった。
でも今日久しぶりに行くことにした。
病室の前で僕は立ち止まっていた。
まだ怖い、あとちょとの勇気がほしい。
『昨日よりも今日、今日よりも明日、1ミリでも強い人間になれるようにしたらいいんだよ』
そんな言葉を思い出した。
そうだ僕は前よりも強い人間になれてるはずだ。
トントントン
冬爾「冬爾です、失礼します」
扉を開けるとベッドに茜先輩はいなかった。
冬爾「トイレかな、、」
おかしいことに気づいた。
あまりにもベッドや机などが綺麗になっていた。
冬爾「もしかして、退院したのかな」
看護師「あれ、あなたは、、」
後ろから声が聞こえて振り向いたら看護師さんがいた。
冬爾「あっあの、僕はここの病室に入院してた茜先輩の、、、、知り合いなんですけど茜先輩は無事退院されたんですか」
茜先輩との関係をどう言えばいいか迷ってしまった。
看護師「あなたが冬爾さんなんですか、あなたに伝えないといけないことがあるんですが落ち着いて聞いてくださいね」
冬爾「はい、」
なんのことか全く想像できなかった。
看護師「この病室で入院されてた茜さんは、つい1週間ほど前に亡くなられました」
冬爾「えっ」
意味がわからなかった。
茜先輩はそんなに重い病気じゃないからもうすぐ退院できると言っていた。
冬爾「何言ってるんですか、茜先輩はちょっと熱が長く続いて念の為入院していただけだったんですよね」
看護師「茜さんはずっと前に余命宣告されていた患者さんでした」
冬爾「どうして、、、」
涙が溢れ出てきた。
僕は崩れ落ちてしまった。
泣いた、どれだけの時間泣いていたかわからないけど長い時間泣いた。
看護師さんは何も言わず、ずっと背中をさすってくれていた。
冬爾「すみません、ありがとうございます」
涙をなんとか止めて言った。
まだ信じられないがこれ以上看護師さんに迷惑をかけるわけにもいけない。
看護師「冬爾さん、こちら、茜さんからあなたへの贈り物です」
そう言って看護師さんは病室の机の上にあった花を僕に渡した。
冬爾「これは、」
看護師「これは勿忘草です」
冬爾「なんで、」
看護師「この花の花言葉は真実の愛、それと『私を忘れないで』です」

2/3/2024, 4:15:44 AM