名無し

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    正直



「正直言って、あんたのこと嫌いだよ」

ガヤガヤと五月蝿い昼時のカフェ。

こんな明るい場所でするには少し暗い内容の別れ話を私たちは淡々としていた。

「……」

「なんにも言わないんだ……でももういいよ。
 別れよ。さよなら。今まで楽しかったよ。次の彼女
 には優しくしてあげてね」

私が席から立ち上がっても、あなたは何も言わずに机を見つめていた。

あなたが飲んでいた冷水の氷がからん、と無機質な音を立てた。



いつだったけ、あなたが私以外を見ているって気づいたのは。

あなたの綺麗なダークブラウンの瞳が私以外に熱のはらんだ視線を送り出したのはいつだったけな。

はじめにあなたのその視線を見た時、これは友情とか尊敬とかそういう類のものじゃないってすぐ気づいた。

だって、私が一番そばで見てきた。

一番私に向けられてた、その目線が他の人に向けられてたんだから。

多分、いや絶対、あなたはその視線を私以外に送っているのに気づいてる。

だって私とキスとかハグとか〝恋人〟とする行為をする時、申し訳なさそうな色があなたの瞳に映ったから。

あなたは優しい。

ひどいぐらい優しいあなたはきっと私を愛せないこと、他に愛したい存在ができたことに苦しんでいる。

だから、もうこんな私のことを愛さないでいいよって教えてあげないといけない。

こんなやつ、いらないんだよって愛さないでって私じゃない人と幸せになってって。

あなたには幸せでいてほしいから。

私のことを忘れてほしいから。

大嫌いって嘘であなたを私の元から送り出さないといけないから。
 


大丈夫。

私はひどいやつだから、あなたの優しさに値する人間じゃないから。




「……幸せにね」

私の元大切な人。




………正直言ってあんたのこと大好きだよ。



6/2/2024, 2:56:24 PM