soumatou

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見知らぬ街



初診時
紹介状を握り締め都内の知らない街へ降り立った
そこはコンクリートに覆われたビルの谷間
沢山の人が無表情で足早に行き交う中で
私はさながら迷い込んだ子猫のようだった
乗り慣れない路線の電車を乗り継いでここまで来たのには
そこまでしても会いたい医師がいたからだ


行きだけで路線アプリを何十回開いただろう
勿論手書きのメモもスクショも撮っていた
それでもドキドキ不安しかない
道中トラブルが起きず予約時間に病院へ辿り着けるか…
というのも私は極度の方向音痴なのだ
あれほどこだわっていた診療の事など入り込む余地がない

ようやく最終駅に着いた
地下の人波に押されるように出口へ向かう
立ち止まって出口3を確認したいが進むしかない
予めシュミレーションしていた場所にいることを信じて左手階段を上がる

やっと出た
地上だ 
浅い呼吸を一つしたところで息をのんだ
そこは田舎者には気後れするような都会だった
街の喧騒がドッと押し寄せ音圧にくらっとするビルの壁脇に立っているのがやっとの状態で
エネルギーを使い果たした

これからが本番だというのに既に拒絶された気分だ
自分が望んだ医師に会える期待と不安を抱えて
そそり立つビルを呆然と見上げた
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あれから1年半 毎月の通院
乗り換えの度 同じ路線で迷子になるという失態を繰り返しながら 今日もあの診察室を目指す

患者に寄り添う真摯な人
彼がそこで待っていてくれる幸運に引き寄せられるように
猫まっしぐらだ
見知らぬ街の只中を脇目もふらずに




8/25/2025, 1:23:42 AM