中学1年生のとき、私は長距離継走部の選抜メンバーだった。
同じクラスの鈴ちゃんも選抜メンバーで、私たちは10㎞を上級生と一緒に走るペースについて行けず、途中から2人で歩いた。無理だよね、ってヘラヘラしながら。
2年生のとき、女子は鈴ちゃんと私だけがメンバーに選ばれた。
「何で私たちだけ?」
「わかんないよ、そんなの」
文句を言いながらも、2人しかいないから走るのをサボるとすぐバレる。バテバテになりつつ、『頑張っている私たち』が誇らしかった。
3年生のときも相変わらず鈴ちゃんと私の2人がメンバーだった。
「他の3年生は?」
「受験が控えているから、そっちを頑張ってもらう」
「ウチらも受験!控えてる!」
「お前らがいないと勝てないんだよ。大会終わったら頑張れ」
「それでも受験生の担任かっ!」
「お前ら推薦入試考えてるんだろ。ここで頑張れば、校内の進路検討会でアピールしておいてやるから」
私たちの担任の体育教師が頑張れと私たちの背中を力強く叩く。
鈴ちゃんと私。
練習で勝ったり負けたりを繰り返しながら、2人のタイムがどんどん速くなっていく。
走るのが楽しい。
夕陽に照らされる鈴ちゃんの後ろ姿を追いかける。
鈴ちゃんが私の背中を追いかける。
負けないように。
私たちは実力が拮抗したライバルだった。
マラソン大会はお互いに思いっきり応援した。
「がんばー!」
「ファイトー!」
鈴ちゃんの応援が私を鼓舞する。
周回のマラソンコースで、後から走る鈴ちゃんが私を力一杯応援してくれる。
走り終わった後、最終ランナーの鈴ちゃんを応援した。
在らん限りの声を張り上げて、
「鈴ちゃんファイトー!」
前を見据える鈴ちゃんは、とてもかっこよかった。
卒業式の後。
私と鈴ちゃんは2人で写真を撮った。
笑顔でピースサインをする2人。
その写真は、卒業アルバムに掲載された。
担任が卒業アルバムを渡してくれながら、
「お前ら、最高の仲間だったな」
私たちの肩を叩いて笑った。
仲間
おまけ
中学校を卒業して、10年。
実家の飼い犬に久しぶりに会いに行き、中学校近隣にある、毎日鈴ちゃんと走った緑地公園でワンコのお散歩をする。
鈴ちゃんとの青春の日々が鮮やかに甦り、心が躍り、
「走ろっ」
ワンコと一緒に練習コースの一部を走ってみる。
「あれ?米ちゃん!?」
すれ違った細身の若いランナーに呼ばれた気がして振り返る。
「えっ…鈴ちゃん?だよね!」
久しぶり!!
テンション高く私たちは喜び合う。
ワンコが不思議そうに私の顔を見て、笑顔の私にしっぽを振る。
「鈴ちゃん、今も走ってるんだ!」
「うん。休日はここで走ってる。米ちゃんは?」
「私は何も。今、ワンコと一緒に走ったら疲れちゃってさー」
「運動不足はやべーぞ」
低い声に振り向くと、中学3年のときの担任がスポーツウェアを着て「元気そうだな」と笑った。
えーと。お久しぶりです、なんだけど。
鈴ちゃんの隣に当然のようにいるのは何でですか?
「あのね」
鈴ちゃんが顔を赤らめた。
「米田にまだ言ってねーの?」
「う、うん」
「俺から言っても良いか?」
「私から言う」
なーんか2人の並んだ近さといい、話し方といい、距離感がバグってる気が…
「私が中学校の教師になったの、米ちゃん知ってるよね?」
「うん。今、うちらの学校で教えてるって、風の噂で聞いた」
「そう。今は先生が別の学校にいるんだけど。
私が新米だったときは同じ学校で、先生、すごく面倒見がよくて…」
もじもじしながら喋る鈴ちゃん。
って、まさか!!
「好きになっちゃったの!?」
「う、うん」
「お互いになっ」
あの頃と変わらず豪快に元担任が笑う。
「ひぇー…」
美女と野獣とは言わないけど、年齢差が…
あーでも幸せそうだなぁ。幸せなんだろうなぁ。
「先生、鈴ちゃんを泣かせたら私が地の果てまで追いかけるからね!」
「運動不足のお前じゃ俺の俊足には追いつけないね」
「そうかも。だから泣かせないでね!」
「幸せにするよ」
鈴ちゃんに向き直って、頭ポンと愛おしさ溢れる眼差しは、こっちが恥ずかしくなるって。
そしてワンコがつまらないとさっきからグイグイヒモを引っ張ってるんだよね。
「じゃあ、もう行くね。ワンコ煩いし」
「あーごめんね、ワンちゃん」
「良いのいいの。鈴ちゃん、今度ランチ行こうよ」
「うん!行きたい!」
連絡先を交換し合って、私たちは別れた。
鈴ちゃんと元担任は2人並んで走って、あっという間に私の視界から遠ざかって見えなくなった。
仲間の幸せ。
喜びが沸いて、私はもう一度、ワンコを走らせた。
12/10/2024, 4:17:47 PM