駒月

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「あ、また枯れてる……何でだろ」
「へぇ、君に植物を育てる趣味があるとは知らなかったな」

 幼馴染みがキッチンでぼやいたから。後ろから覗きこんだら素早い裏拳で殴られた。

「父さんにハーブの種を貰ったから、育ててみただけだし!」
「なるほど、ファザコンが過ぎるというわけだね。で、何回枯らしたのかな?」

 意地悪い質問をすると彼女は小さな鉢を抱えたまま黙りこくってしまう。
 俺の知ってる彼女は体育会系で、ストイックに毎日体を鍛え続ける真面目な女子だ。植物の世話は今始めて知ったが、水やりをサボって水不足になることはない筈だ。
 鉢の中の土を見てみても、充分に濡れている。

「きっと、水のやりすぎだね。根が腐っているのかも」
「えっ?」
「毎日水をあげていただろう?愛情を注ぐのはいいことだけど、過ぎるとよくないこともある」
「う……」

 無知が恥ずかしいのか、落ち込んでいるのか……彼女はがくりと項垂れた。

「植物の分、俺に愛を注いでくれると嬉しいんだけどね?」
「だ、誰がアンタなんかにっ……」
「はは、顔が赤いよ? まぁ、半分冗談だけど。種はまだあるかな?今度は俺も一緒に育てるから」

 彼女は目を丸くして驚いた。
 お父さんを喜ばせたいんだろう?と言うと素直に頷くのがいじらしくて、俺は笑ってしまった。
 愛は適度に与えたいものだね。



【愛を注いで】

12/13/2023, 11:31:00 AM