藁と自戒

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何に追われる訳でもないのに、いつも逃げてきた。

小学校、嫌いな給食の時間。いつも最後
中学校、合わない部活の時間。そっと帰宅する。
高校、難しすぎる勉強。机に向かう時間が減る。
浪人、社会からの視線。自分自身に目も当てられない。
ただ、嫌なことから、半歩、1歩と歩みを遠ざけた。

そして今、社会人。
閉鎖的な都会のワンルーム。
在宅ワークなのにも関わらず、
居心地の悪さから地元を離れ、
あれほど援助をしてくれた親とは絶縁した。

あの時、何かを変えれば今が変わったのだろうか。
小学校、好き嫌いを悪として完食を強いる担任教師。
中学校、下卑た表情で身体をべたべたと触ってきた外部コーチ。
高校、授業のたび難しい問題だけを当ててきた数学教師。
誰か1人でもぶっころせば何か変わったのかな。

どうしてか、いてもたってもいられなかった。
仕事でくたくたになった身体に自然と力が入る。
就活の時にお母さんが買ってくれたスーツ。
お母さんが私にくれた最後の贈り物。
包丁で滅多刺しにした後に床に放り投げた。

後悔と快感とが指先を伝って身体に流れ込んでくる。
強すぎる刺激に頭がくらくらする。
こんなに感情が揺れ動いたのはいつぶりだろう。
私は泣きながら笑っていた。
ただ一つの行動で未来とも過去とも決別したんだ。

ごめんなさい。一言つぶやく。
玄関のドアを勢いよく開ける。
鍵はもちろん、もうかけない。
最後に思いっきり走りたかった。
走るのが嫌いになった中学生の頃以来だ。
こんなに気持ちよく走るのは。
少し走るだけで息は乱れ、肩が揺れる。
でも、もう気にしない。
私は人生で初めて、思いっきり階段を駆け上がる。
走る。逃げる。逃げる。
初めて、こんなに気持ちよく逃げたんだ。
逃げた。ちょー逃げた。
生きることから。

月明かりは素知らぬ顔で真っ赤に染まった私を照らしている。

#ただ、必至に走る私。何かから逃げるように

5/30/2023, 11:07:13 AM