『永遠の花束』『heart to heart』『静かな夜明け』
家の外から、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
あれからどれだけ時間が経ったのだろう。
衝撃的な事件から一睡もできず、寝ていないのに冴えた頭のまま、私は静かな夜明けを迎えた。
目の前にあるのは、花の残骸。
かつて花束だったものだ。
昨日まで私を魅了した花束だが、今は見る影もない
どうしてこうなったのだろう……?
私はそれを見て何もできず、呆然と見つめていた……
この花束は、愛しの彼がプロポーズにくれたもの。
巷で噂の『永遠の花束』。
この花束は、千代という土地で摘まれた花で作られている。
千代――つまりとても長い年月を意味する、大変縁起のいい場所だ。
ここで育った花でプロポーズすれば、二人の永遠が約束されるという
もちろん根拠のあるものではない。
花束を売っている企業が勝手に言っているだけで、本当にそんな効果があるかは分からない。
でもいいじゃないか、ロマンチックで!
彼が、私を思ってプレゼントしてくれたのだから!
心が込められたプレゼントは、心で受け取らなければいけない
heart to heart。
余計な理屈を持ち込んでは無粋というものだ。
だから花束を貰った私は、嬉しくて嬉しくて、大事に抱えて家に戻り、そのまま部屋に入り、そのままベッドで悶え――そして寝落ちした。
その上私は寝相が悪い。
ふと夜目が覚めて、体を起こしてみれば、目の前には無残な花束の姿。
叫ばなかった自分を、褒めてやりたい
花束だったものの出来上がりである。
永遠なんてないとはいえ、まさか翌日にこんなことになるとは……
コレが彼にばれたらマズイ。
なにせ彼の心のこもったプレゼントを粗末に扱ったのだ。
気分を害した彼にプロポーズをキャンセルされ、破局を迎える可能性は高い。
「それだけは避けなければ」
決して彼に悟られてはいけない。
私は、この秘密を墓場まで持っていくことに決めた。
ブーブー。
まさにその時、スマホが震える。
画面には、彼からのLINEの通知。
まるでタイミングを見計らったかのように来たメッセージを、ビクビクしながら読んでみる。
『おはよう』
送られてきたのは、恒例の朝の挨拶。
なんだ、気にしすぎだったみたいだ。
私はホッと一息ついて、ベットに倒れ込んだ。
ブーブー。
私が返事をする前に、彼がさらにメッセージを送って来る。
いつもは私が返事するまで、新しいメッセージを送ってこないのにどうしたのだろう。
私はスマホを取ってメッセージを確認する。
『結婚したら、お互い秘密は無しにしようね』
ノォォォォォォ!
私、今まさに秘密を抱えております!
そして絶対に明かさないと決意しました。
なのに『秘密をなしにしよう』って?
本当に見ているんじゃないの?
私は、これに対してどう答えればいいのか?
秘密を抱えて彼を裏切るか、それとも秘密を明かして彼に失望されるか……
究極の選択だ。
私は頭を抱えてうずくまる。
♪~ ♪~
その時、スマホから着信を知らせる音楽が流れる。
彼からだ。
やはり秘密に気づいて……
もう諦めよう。
彼は何もかもお見通しだ
私は悲痛な気持ちのまま、通話ボタンをタップする。
「もしもし、やっぱり声が聞きたくなって――」
「ごめんなさいぃぃ」
「えっ、何事!?」
「うわあああん!」
「お、落ち着いて。
ほら深呼吸!」
突然謝罪を始める私に、なにも分からず困惑する彼。
そして事情を把握した彼は大笑いし、後日改めて『永遠の花束』をプレゼントしてくれた。
その後無事に籍を入れ、結婚生活は10年20年と、平穏に過ごすことが出来た。
『永遠の花束』はご利益があったらしい。
永遠は伊達ではなかった
ただ、あの事は彼にとってツボだったらしく、しょっちゅう揶揄われることになった。
なお、その時貰った『永遠の花束』は、ドライフラワーにして今も居間に飾ってある。
2/8/2025, 4:02:29 PM