『桜』
桜は人の心を狂わせる。
いや、正確に言うなら、日本人の心をざわつかせ惑わせる、か。
なぜ私たちはこんなにも桜の開花に一喜一憂し、はらはらと散る様子を惜しみ愛するのだろう。
狂信にも似たそれは、もはや愛でるというレベルをとうに超えている。
桜の下に屍や鬼の姿を幻視し、そこに張り詰めた虚空を見る。
望月の晩に満開の桜の下で息絶えたいと願った歌人の気持ちがわかってしまう私は、そういった彼らと同類なのだろう。
一輪の桜は可憐でやさしげな花なのに、桜の木を見上げると清々しさと妖しさを感じる。
特別な色をしているわけでもなく、
特別な形をしているわけでもない。
けれど――
ただの花であるはずがない。
ただの花でいさせてはいけない。
そんな気がして、桜に何かを添えたくなるのだ。
例えば、あの淡い薄紅色の花びらに、深紅の血痕がついていたら――とか。
嗚呼、しづ心なく花の散るらむ。
4/4/2025, 1:16:53 PM