扉の向こうから、彼女の声が聞こえる。
あの日、突然の交通事故で死んでしまったはずなのに。
間違いなくそれは、彼女の声だった。
少し悲しげな、優しい声。
僕は、扉を開けた。
留守番電話の応答メッセージ。
こんなところに君の声が残っていた。
声だけでなく、この部屋には君を思い出させるものがたくさん残っている。
二人で買った家具やインテリアは、君の好みで選んだものがほとんどだから。
ソファに体を沈め、あの頃を想う。
二人並んで座って、少し悲しいホラー映画を観たね。
怖がりながら泣いていた君が可愛かった。
主人公がヒロインと死別するシーンで、僕の手をギュッと握りしめてくれた君。
僕が泣いていたのは、映画のせいばかりじゃなかったんだよ。
こんなサヨナラがあるとは思わなかった。
映画の中だけの、演出された展開だと思っていた。
もう一度、僕の手を取って、あの笑顔を見せてくれないかな。
もっと君の声が聞きたいよ。
ずっと君のそばで眠りたいよ。
何故僕は、ここにいるんだろう。
あの日僕は、突然の交通事故で死んでしまったはずなのに。
彼女の声が聞こえる。
誰かと笑い合っている。
幸せそうに、僕のいない世界で。
9/22/2024, 2:39:10 PM