どろどろの溶解液を、型に流し込む。
真っ赤で重たい液体は、時折銀や金にきらめきながら、ゆっくりだらだらと型に流れ込んでいく。
型にぴったりと流れ込んだ金の溶解液は、重たそうに揺らめいた。
その中には、時々ハッとするような美しい金や銀や碧にきらめく星のようなキラキラが見える。
私は今、生涯一度の大仕事を行っている。
この町のための武器を作るのだ。
星のかけらを溶かし混ぜた金を使って、美しく、精巧な剣を作るため、私は今こうして工房の中で息を詰めて、仕事をしていた。
この地が平和になって、もう50年ほど経つそうだ。
私は平和な時しか知らない。
昔々、この地には、この世に未練と恨みだけを遺して彷徨う、恐ろしい魔霊たちがうろついていた。
その魔霊たちとの戦いが始まったのが今から80年前だ。
80年前、人間同士の戦争がやっと終わって、この町はようやく、自分の地域の問題点に向き合うことができたのだ。
それからこの地の人々は、魔霊をやっつけて安らかな眠りにつかせるために、試行錯誤し、闘い続けた。
他の人間世界が平和になってから30年もの間。
そしてその中で、霊を慰め、退けるためのものを発見したのだった。
それが星のかけら。
正確には、宇宙の星が欠けて流れてきた流れ星。
そしておあつらえ向きに、どういうわけか、この地は流星が多い地だった。
この発見を元に、この地では星のかけらを溶かし込んだ様々な武器が作られるようになった。
魔霊を安らかに眠らせるために。
魔霊から身を守る護身のお守りのために。
死んだ自分の縁者が安らかに眠れるように。
自分が死ぬ時に魔霊にならず、安らかに逝けるように。
死に対する様々な願いを一身に受けて、星のかけらを混ぜ込まれた武器は、この町の人々に受け渡された。
だから、この町から武器職人はいなくならない。
私は、この町の武器職人だ。
普通の合金で、旅人や他の地域に流す武器を作るだけでなく、銀や金や銅や鉄に星のかけらを溶かし込み、この町の人々への武器を作る。
なかでも、金に星のかけらを混ぜ込んだ武器は、なかなか難しく、貴重だった。
金は貴重で星のかけらも貴重。
そしてどちらも加工しやすいために、ちょっとの温度変化で変形してしまいやすく、武器としての強度をもたせるには、相当の技術がいる。
この町の武器職人にとって、一世一代の大仕事。
そんな仕事が私の元に降ってきたのだ。
師匠が先立ち、独り立ちして5年の私の元へ。
魔霊に打ち勝ち、平和と鎮魂の町として語り継がれるこの町のシンボルとしての剣を作る仕事が。
私は唾を飲み、気合いを入れる。
ここからが勝負だ。
この町に、この地に相応しい剣を、必ず作り上げてみせる。
亡き師匠、世紀の武器職人だった師匠の名に賭けても。
私は型を冷やすために、移動させる。
どろどろの金の中で、星のかけらがきらりと顔を覗かせた。
1/9/2025, 11:00:19 PM