燈火

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【不完全な僕】


僕の苦手や嫌いを知るたび、彼女は「意外」と言う。
なぜか、何でもできる人だと思われているらしい。
学生の頃に生徒会長を務めていたのを知っているせいか。
彼女だけでなく、今まで交際した相手によく言われた。

理想の姿を期待して、現実を知ると離れていく。
とうに慣れてしまった、いつものパターン。
僕に好意を告げた口で「なんか違う」と罵る。
勝手に幻滅したくせに、まるで僕が悪いみたいな。

僕の来る者拒まずな態度は、誰にも期待していないから。
表面だけ見て寄ってくる人間に取り繕うのも馬鹿らしい。
少し見目が良いだけで、勉強も運動も優秀ではないのに。
夢を見たいなら、わざわざ近づいて傷つけないでほしい。

彼女も選ぶ側に立った一人。僕に好意を告げた人。
いつか離れていくのだから、特別扱いなんてしない。
理想と乖離した僕の姿を、どうせ彼女も受け入れない。
そう諦めていたけど、彼女は「意外」と言うばかり。

「期待外れなら、はっきり言っていいんだよ」
今までの相手と違う反応に耐えられなかった。
心の中では何を考えている? 探るように見つめる。
半年も交際が続いたのは彼女が初めてだ。

「別に期待外れなんて思ってないけど、なんで?」
普段と同じ声のトーンで答え、首を傾げる彼女。
口癖のように「意外」と言うのにそれが本心なのか。
素直に信じることはできなくて、まだ疑ってしまう。

「『意外』って言葉、理想と違うって意味でしょ」
「なにそれ、馬鹿にしないでよ」彼女は心外だと憤る。
「新しい君を知ったのに、不快になんて思うわけない」
等身大の姿を見られていなかったのは、僕のほうだった。

9/1/2023, 9:42:25 AM