27(ツナ)

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「君の名前を呼んだ日」

私と妻は見合い結婚だった。
見ず知らずの人との結婚生活に最初は戸惑いばかりだった。
毎日、私の為にあくせく働く妻。
彼女も彼女で計り知れない程、戸惑いや気苦労があったろうに、そんなもの意に介さないような笑顔を毎日わたしに見せてくれた。

順風満帆な生活だと感じたが、そんな妻にわたしは何もしてやれていなかった。
なにか恩返しできることはないだろうかと気心知れた友人に相談すると、「女は自分の名前を呼んでもらえると嬉しいんだとよ。」なんて助言を受けた。
確かに、妻のことを名前で呼んだことは無かった。 呼ぼうとしても照れくささでどうしても吃ってしまう。

ある日、わたしは照れくささを押し殺して、初めて妻の名前を呼んだ。
「…まぁ!まぁ、まぁ、まぁ!!旦那様、今、あたくしの名前を呼んでくださったの!?…ありがとうございます。とっても嬉しいわ。」

妻は目をまん丸にして、想像していたより何倍も喜んでくれた。
わたしもなんだか嬉しくなって口元が緩む。
互いの頬が綺麗な紅色に染まった。

5/26/2025, 11:33:25 AM