織川ゑトウ

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『神情(しんじょう)』

疲れていた。疲れていたんだ。私は。

よく分からない言葉に耳を通し、崇めるものには歩みより、貶すものには罰をやり、
ずっと、こんな毎日が続くだけ、色などつかぬ透明の世界。
そんな中、ある声が耳を痛感させた。

「僕たちは何者なのだ」

数千数億ともある問いかけから、たった一つ、凛とした声で
「存在」について問いかけてきた。
その問いを聞いた瞬間、私の胸は

どきん

と苦し紛れに高鳴った。

何故だろう。生きているはずなどない、冷たいであろう私の手が
暖かく、色づいて視えた。

何者か。確かにそれは神しか知らぬ未知の世界、未知の言葉。
だが同時にそれは、神すらも恐れる「死」の言葉。

何者…問いかける度に自我が崩壊してゆく。
もし確証をもってして答えたとしても、それは言ってはいけないのだ。

世界のコトワリ、オキテなのだ。

しかし、しかし、しかし!!
私も気になる。その問いかけが、気になるのだ答えた後が。
世界は崩壊するのだろうか。それともよくやったとまた崇められるのだろうか。

それとも、死ぬのか?

あぁ、教えてほしい、もっと知りたい…
よもや気づかなかった。
「神」として存在する自分にこんな醜い欲があるなど。

そして私は下界に舞い降り、こう言った。

「________」

世界は白く、どす黒く、虹色に包まれた。

人々の反応は様々であった。

困惑する者、興奮する者、なにくわぬ顔の者。

…言った。言った。言ってやったぞ!!
ついに言ってやったのだ!!世界のオキテを破ってやったぞ!!

さぁ、どうなる?どうする?
煮るか、焼くか、殺すか?

ーーーー

私は、地獄に落とされた。
「欲にまみれた汚い下等生物が」と言われた。

…ハ、ハハハ!ハハハハハ!!

笑ってやろうじゃないか。
こんな汚ならしい世界から抜け出せたことを。

見たか?神よ、人間よ、地獄の鬼どもよ。
結局は変わらぬのだ。
私たちは「存在」という概念に囚われ続け、先など見えない。見ようとしない。
見ようとするのは己が心ばかり。

ーー嗚呼、そういえば忘れたいた。
何者だと問いかけたのは、前世の私だったのだ。

また私も、一人の人間であったのだ。


お題『神様が舞い降りてきて、こう言った』

※貶す=けなす

あとがき
ギリギリセーフ!!ですかね?塾で少し時間が余ったので、書いちゃいました。
この作品、お気づきのお方もいらっしゃるでしょうが、私の前作『神近感』の続きです。
いやーあの作品は自分が結構お気に入りなやつで、ついつい似たお題で書きたくなっちゃいました。他にも、題名は忘れましたが春爛漫がお題だったフランス人の彼女を亡くした彼氏がお墓参りに行くお話とかお気に入りです。
そういえば最近暑いですね。外を出るときは水筒や日傘など、暑さ対策をお忘れなきよう、気をつけていってらっしゃいませ。


7/28/2023, 9:29:53 AM