—小さな家政婦—
ある日、母が新しい家政婦さんを連れてきた。
僕と同じくらいの背丈の少女だった。
「今日からお世話になります。セリアです。精一杯がんばります!」
真新しいメイド服に身を包んだ彼女は、ぎこちなく腰を折った。
彼女は要領があまり良くなく、叱られることも多かったが、早くこの家に慣れようと必死に努力していた。
——私はご主人様に買われた身なのです。とても感謝しております。
いつの日か、セリアは屈託のない笑顔でそう言った。彼女の話によると、奴隷として、この世を彷徨っていたらしい。
字は読めず、書けない。魔法も使えない。
それでも懸命に働く彼女のことを、僕はいつの間にか目で追うようになっていた。
「君がここにきて、一年になるだろう。父や母には内緒だよ」
僕は記念日に、彼女にプレゼントを渡した。
「受け取れません。そういうのは、もっとふさわしい方に——」
「僕は、君にあげたいんだ」
彼女は悩んだ末に、受け取ってくれた。
銀の指輪だった。
隣にセリアがいる日々が流れゆき、やがて僕は、彼女へ恋心を抱いていることを自覚していった。
そして彼女もまた、少なからず僕に好意を寄せてくれていることにも気づいていた。
しかし関係は進展することなく、彼女がここにきてから一年と半分が経った。
「母上、セリアはどこへ」
学園から帰ると、セリアはこの家からいなくなっていた。
「彼女は、最後に立派な働きをしてくれました」
「どういう意味ですか」
僕が学園にいた間、隣国の商人が借金の件で我が家を訪ねた。商人は、この家の弱みを握っていたらしい。
セリアは商人の胸を刺した。
そして、凶器についた彼女の指紋が証拠になり、連行された。
つまり借金の証書を消すため、口封じをするために、セリアを雇ったということだった。
僕は、自室に飛び込んだ。
僕の勉強机には、銀色に光る指輪と一枚のメモが残されていた。
『ありがとう』
震える文字で、そこにはそう書かれていた。
お題:不条理
3/19/2026, 2:14:01 AM