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青い服を買った。絵の具のチューブからそのまま絞ったような色。それが随分よく似合った。

青でなければ映えない。
インディゴに染めた色は己の肌にちっとも合わない。
このくにで身に纏う〈あお〉は縹色だから、藍のインディゴの馴染まない肌などはまがいものだと思った。
たまらない気持ちで十代を過ごした。このくにの色は私のためにない。私はこんなに、ここにいるのに。

ちかごろ青い服を買った。それが随分よく似合った。夏である。見上げた空が同じ色をしていた。
このくにの干天の色が私によく似合った。

このくにで、私にふさわしい色は私を飾るためにはない。このくにの青は天のためにある。
生命たちの極地で生命から最も遠くの無慈悲を差し出すものの色。

仰いでも仰いでも空がある。まもなく昼を堪えかねようとしている。焼ききれそうな坂道を一心に駆け、見上げて駆け、見据えて駆ける。空がある。

つまりはそれが幸いなのだった。

8/6/2023, 9:16:07 PM