この世には、名も知られない存在がさて、幾億とあるのだろうか。誰にも知られず、あるいは誰からもあるがままに意に介されず、そうして存在の意義を曖昧にするものが。道端に陽を探すこの小花もその一つと言えるだろう。風に吹かれ、排気を浴び、雑踏を見逃すだけの存在に、誰が意識をむけるだろうか。情報と知識の飽和した社会では、その手にした端末をひょいといじれば、この花の存在は明らかになる。しかしてその存在が、その端末に光らせた画面を消して、幾許もつものか。
何もせずにただそこにあるだけの存在が、人の意識に介入できる余白はそう多くはない。それが風に儚い花であろうとも、社会から隔絶された扉に阻まれた少年であろうともだ。
6/25/2023, 1:46:12 PM