一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→賑やかに騒がしく

 昔、近所に社宅団地があった。コンクリートブロックのような形の団地が、等間隔に何棟も並んでいた。
 団地に暮らすのは、若い夫婦が多かったように思う。小学校の登下校時には、団地に帰ってゆく小学生の集団をよく見かけた。
 社宅団地の敷地の出入り口に掛けられた会社名の書かれたプレートは表札のようで、まるで団地全体が大きな家族のように感じたことがある。実際はもっと複雑な人間関係があるのだろうのが。
 そんな大人の事情はともかく、午後から夕方まで、その団地は子どもたちのはしゃぐ声が絶えなかった。時には、団地をこだまして鬱陶しいくらいに。
 どんな遊びをしているのか、彼らのおしゃべりはとどまることを知らず、声を抑える配慮などせず、ただ無邪気に遊ぶその声は、まるで小鳥のさえずりのようだった。可愛らしい歌を、騒々しく熱中して歌う。
 いつまで聴いていても飽きず、ある種の郷愁すら誘う。
 
 人に聞くところによると、団地はなくなってしまったらしい。生き生きとした歌が、あの場所に響くことはもうない。
 

テーマ; 歌


5/24/2025, 3:27:27 PM