せつか

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薄青い小さな花が、横たわる長身を飾るように群れ咲いている。
眠るみたいに穏やかな顔はそのうちのっそり起き出して、いつもの間延びした声で「おはよ~」とでも言いそうだ。けれどそれは絶対に有り得ないことを、俺はよく知っている。

閉じた瞼は二度と開かれることは無く、不思議な色をした瞳を見ることはもう叶わない。
「この色、アンタのイメージじゃねえんだけどな」
胸の上で手を組む姿は妙にキマっていて、スーツの色と対になるようなその花の薄い青も、まるで計算されたように俺の目に映った。
「なにが〝私を忘れないで〟だよ。生きてる間は俺なんか歯牙にもかけてなかった癖に」
軽口叩いて俺の手をスルリとすり抜けて。
なのに意味深な目を向けてきたりして。
俺は取り巻くように咲くその花を一房むしって、薄く開いた唇に押し込んでやる。
「アンタに振り回されて散々だったよ」
最後の最後まで、この人は俺を振り回してからかうばかりで、本心を見せてはくれなかった。
「お陰でアンタが消えてくれない」
アンタの望む通り、俺はアンタを忘れられなくなった。

唇に挟んだ花びら越しに口付けを交わす。
「やっとアンタを俺のモンに出来る」
ひとりごとのように、呟いた。
 

END


「勿忘草(わすれなぐさ)」

2/2/2026, 3:57:00 PM