疎外された男

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踊りませんか?

小さい頃より、私は退屈と言うものに悩まされてきた。
何をやっても満たされない。

誰と何をやっても何も感じない。

もっと、もっと何かが欲しい。

もっと人間の理性を越えた何かが...

それでも私が人間との関わりを絶たないのはやはり、こういう事があるからだろう。彼女は突然やってきた。私が行きつけのバーで飲んでいたとき、鈴の音を転がすような声がするから思わず聞き惚れていた。それが彼女のものだと分かるまでは、そう時間はかからなかった。それからの行動は早かった。彼女が少し離れた席に着くや否や、直ぐに話しかけた。私は、元来人間の所謂、絆だとか友情だとか精神的な神秘にはまるで興味はなかったが、長いこと人間を観察し、その動きを真似、技術として習得していた。それ故、人に好かれるのは人一倍得意であった。おまけに私の容貌もそれほど悪くない。むしろ端正な方だ。おかげで、彼女は直ぐに警戒を解いてくれた。バーに来るのは初めてだという事、好きな食べ物の事、一言一句全て頭に叩き込んだ。この時間が愛おしい。数時間かけて、彼女が私に好意を持ったと確信したとき、彼女を家に誘った。彼女は頬を赤らめ素直にうなずいてくれた。私は彼女の手をとり自宅へと歩き出した。色白で美しく、滑らかだった。やはり私の目に狂いはなかったらしい。
さて、そんな彼女は今私の前で眠っている。酒はそんなに強くないらしい。直ぐに酔いつぶれた。これからの神秘を思うと、動悸が止まらなかった。胸に手を当て、数回深呼吸してこころを落ち着かせる。妖艶さを自身に纏わせ、私は彼女の服に手をかけた。
数時間後、彼女はすっかり全身赤くなっていた。今はぐったりとしている。しかし、そんなところも相変わらず愛おしい。これならば、暫くは退屈な夜を踊り明かすこともできるだろう。実際とても気分がよかった。私はちらと、彼女の魅惑的な手を見た。これが私を虜にしたのだと思うと、女というものは恐ろしく、美しいと改めて思う。私は彼女の手を口元へ持ってゆき、優しく口づけをした。
そして彼女の手を永遠にと変えた。

『狂人』

10/4/2024, 3:23:53 PM