《愛を叫ぶ。》#28 2026/05/11
見ろ、人がゴミのようだ。
なんて思ってる場合じゃない。空が近い、大地は遠い。ハーネスできつく締め付けられた身体は、ガクガクと震えている。
何でこんなことになったんだっけ。
その原因となった聡子は、遠くからニコニコと手を振っている。表情を読み取る余裕もないけど、たぶん、笑顔だ。
長い春休みを持て余していた、大学生であるところの私達は、何となくだが遊園地へと足を運んだ。
東京を名乗るテーマパークではなく、昭和の時代からあるという遊園地だ。
来てみると、意外と楽しい。有名なマスコットが居るわけでもなく、見ているだけで心躍るパレードも無い。
それでも、ジェットコースターに乗り、クレープを食べながら歩いているだけで笑顔になれた。
もっとも、隣に聡子が居てくれたから、というのが笑顔でいられた一番の要因だ。
彼氏に手酷く振られた私を、慰めて、いつも何かと気遣ってくれたのが聡子だった。彼女が居なかったら、私は試験を受けられず留年確定だったはずだ。
そんな聡子が、ふいに立ち止まって、ある一点を指差した。
「ねえ、広海。あれ、楽しそうだね」
その瞬間、豆粒のような何かが、宙に身を投げだした。ここまで聞こえてくる絶叫と共に。
バンジージャンプ、生で見たのは初めてだ。
「楽しくは、ないんじゃないかな?」
ジェットコースターならいざ知らず、身一つであの高さから落下するだけって……考えただけで、怖気が走る。
「もっと近くで見てみたい」
言うが早いか、聡子はさっさと歩き出した。待っ、ちょっと……慌てて私も追いかける。
まあ、見るだけなら。
で、気付いたら、こうだ。
広海が飛ぶところを、見てみたい。
恩人であるところの聡子に、無垢な笑顔でおねだりされ、私は断われなかった。何故なんだ……。
大丈夫。きっと大丈夫。ここは日本、安全基準もバッチリ。スタッフさんが、何重にも安全を確認してくれた。事故るなんて筈は無い。
「ご自身のタイミングで、いつでもどうぞ」
優しく促されて、所定の位置に立つ。
よ、良し、とにかく行こう。これで、聡子が喜んでくれるなら、恩返しとしては安いものだ。
「イ、イキマス」
掠れる声で、宣言した。
スリー、ツー、ワン、バンジー!
スタッフさんの掛け声と共に、身を投げだす。
不思議な事に、目を見開いたまま。
世界がかき回される中、聡子と一瞬、目が合った。
そんな気がした。
その聡子の表情は、笑顔ではなくて、何かを祈るような、真剣な眼差しで。
そんな顔されたら、私、もう……
「さとこー!好きーー!!」
想いが溢れて、絶叫していた。
実際には悲鳴交じりで、言語化されてなかったかもしれない。
でも……落ちきって、二度三度と大きくバウンドしている最中、私は自覚していた、
私、聡子が居なきゃ、駄目なんだ。
地上に無事生還した私を、聡子は泣きべそをかきながら出迎えてくれた。
「何であんたが泣いてるのよ〜」
そう言いながら、聡子のことを抱きしめた瞬間、私も泣いてしまった。
結局、飛んだのは私だけだった。その点については、今でもイマイチ腑に落ちていない。
「広海なら、解ってくれると思って」
バンジーを飛ばせた理由を再度尋ねたとき、聡子はこう答えた。たまに、こういう不思議ちゃんなところがある。
まあ、でも。
今、こうして、最愛の人と一緒になれたのだから、それでまあいっかー、と思うようにしてる。
でもでも、今度の一周年記念日には、私の為に飛んで、叫んでくれるよね、聡子。
5/11/2026, 12:53:39 PM