風に身をまかせ
「知ってる? 普通の風じゃ、僕らは飛べないんだよ」
風に身を任せたら、どこまで飛べるだろう、と言おうとした言葉を飲み込む。
でも、彼はそれすら気づいているかのように、朗らかに詠う。
「風も馬鹿じゃあない。あいつらが本気なんて、そう滅多には出さないさ」
そこまで言われてしまえば、もう泣くしかない。
「なら、私はどうしたらいいの!? 私達はは飛べなきゃ、殺されるんだから…!」
本当は彼なんかに、泣き言なんて言いたくなかった。でも、限界だったのだ、もう。
これまで、沢山の「飛べなかった妖精」の末路を、震えながら見てきた。自分もあのようになってしまうなんて。
「飛べた妖精」である彼には、こんな気持ちは解るまい。
「身をまかせるんじゃなくて、対話するんだ」
そんなの、今までも沢山聞いた。でも、できない。
自分の不甲斐なさに、もっと泣けてきてしまう。
「そうだなあ」
と、なぜか彼に手をとられる。
そして。
「──おいで」
そして、ふたりは風の渦へと、身を投げだした。
ヒュウゥゥと、耳に風の音が聞こえる。
なんだ、これは。
「これが、風と共に翔ぶ、てことさ」
身をまかせる。
共に翔ぶ。
なんてことだ。
全く違うではないか。
空が近い。海が遠い。
これが、翔んでるということなら。
「凄い……!!」
──もっと、翔びたい。
その時初めて、彼が笑った。
「やれそう?」
そんなの。
「──翔びたい!」
はてさて、彼女は「翔ぶ」ことを覚えるまでに、彼から何を得ることになったのか。
それを知るのは、彼と風、そして空のみ。
5/15/2023, 3:56:26 AM