ある日、目覚めたら隣にわたしがいた。
……えっと、状況を整理するか。とりあえずほっぺをつねる。いてて。夢⋯ではないな。だとしたら現実で、わたしは今こんなファンタジーにあってるってことなの?はあ?いや待てよ、落ち着け。とりあえず、学校休む口実できたな。良かった、課題終わってなかったし。それは喜んどこ。やっほい。なんて現実逃避は良くないな。えーと、なんでこんなことになってるかってことだけど
①瓜二つな双子がいた説
②瓜二つな他人が不法侵入してた説
③よくできたロボット説
とか?ああ、あと分身の術……んなわけあるか!!
いやでも実際にこんなこと起きてるしなあ。ある、のか?いやでも……
「んが──んん?」
あ!起きたようだ。なんか自分を見るのって不思議な感じするなあ。これロボットじゃなさそう。③は没。
「え!!わたしがいる!!?」
そうなるよね。これ不法侵入したやつのセリフだったらもはや怖いよ。②もなさそうだな。え?てことは①?
「わたしって分身できたのか……?」
うわ──この思考回路、完全にわたしじゃん。でも一応確認しなきゃかな。
「色々考えてるとこ、ごめんなんだけど、名前教えてもらっていい?そんで、あなたどっからきたの?」
「え?えっと、こっちのセリフなんだけど……ここわたしの部屋だよ?あ、もしかして生き別れの双子のお姉さんだったりする?」
「わたしも今それ考えてたんだよ。あとここはわたしの部屋だから」
「はあ?まあいいや。名前?名前は佐伯由紀だよ」
「え」
「え?」
「……一緒なんだけど。同姓同名の他人、なわけないよね。こんなに似てるのに。」
「は!!?こわ!!」
どうなってるんだこれ?──トン トン トン
まずい階段を登ってる音がする。わたしを起こしにきたようだ。お母さんになんて説明をする?ちらっと視線をうつすともう一人のわたしも察してあわあわしてる。わたしって傍から見たらこんなに態度に出てるのか、ちょっとうける。そんな場合じゃないわ、とりあえずお母さんをなんとかしないと!
「早く起きなさい!」
バンッとドアが開く。
「えーっと、今日ちょっと体調悪くて!学校休ませてほしい!あと、うつったら悪いから部屋には入らないで!」
布団にうずくまりながらもごもごしゃべる。
「はあ?あなたが体調崩すなんて珍しいわね、雨でも降るのかしら?まあ休みたいならそうしなさい。お母さん、もう仕事行くからね。」
お母さんはそう言い残し、ドアを閉めて階段を降りていった。ドアの裏に咄嗟に隠れたもうひとりのわたし、グッジョブ。
両親は仕事に行き、家にはわたしともうひとりのわたしだけになった。
「状況を整理しよう…夢ではないなこれは。」
そう言ってもうひとりのわたしはほっぺたをつねった。既視感あるなあ。ん?でも…
「どっちもわたしなのに、なんか少し違う気がするな」
「え?」
「今あなたほっぺたつねってたけど、わたしだったら最初に夢かどうか疑うし。そっちは最初に分身説あげてたよね」
「たしかに…。」
「もしかしたら平行世界からもうひとりのわたしがきたのかもしれないな。普通なら有り得ないことだけど実際有り得ないことが起きてるわけだし。」
「でもさ、したらどっちがこの世界のわたしって言えるんだ?」
う───ん…。なんだこれ、めんどくせえ。わたしはこーゆーの考えるの向いてないんだよね。
「考えるの飽きた。どうしよーもこーしよーもないし、せっかくだからそっちの世界のわたしのこと教えてよ」
とりあえず話を聞かせてもらおうではないか。
「テキトーだな、まあいいや。話すの好きだし」
やっぱり会話してても思考回路のズレというか、言う言葉がハモったりはしないな。同じ自分だったら言うことが被るもんじゃない?思考回路同じなんだし。なんか都合いい感じするな──なんて考えてる間にもうひとりのわたしは話し始めた。仲良しの友達、好きな物、楽しかった思い出などなど。
「うん、ぜーんぶ知ってるわ。つまんないな。まったく同じじゃん」
「一緒なんだからわかりあえて楽しいんじゃないの?」
「いや、なんか、違うというかなんというか…わたしの求めてるのは……」
「?めんどくさいひとー」
そうだよね、なんでだろ。自分がもうひとりいたら意見が合わないなんてことないし、感じ方も一緒だから楽しいはずじゃないの?でも、なんか違うって思うんだもん…。
うんうん唸っているともうひとりのわたしが何か気づいたようだ。
「ねえ…これ……。」
「え?……ああ」
もうひとりのわたしが指さした先には、1枚の写真があった。正確に言えば半分に破れてわたししか写ってないけど。そういえば誰かと撮ったんだよね。破れた半分に写っていたのは誰だったかな…。まあいっか。
「ねえ…これって──」
「そうだ、お腹空かない?朝ごはんまだだったし。」
もうひとりのわたしがなにかを言いかけたが、被せるように言葉が口をでた。これ以上、もうひとりのわたしからなにもききたくない。本能がそう言っている。
「まって」
部屋を出ようとしたらもうひとりのわたしがわたしの腕をつかんだ。
「まって。違和感に、もう気づいてるでしょ」
なにを言ってるんだ?なにを───⋯
ふっと目の前が暗くなった。あれ、わたしはなにをしようとしてたんだっけ。そうだ、会いに行かなきゃいけないんだ。
「優佳にはもう会えないよ。」
誰?優佳って。───いや、知ってる。忘れるわけない。まって、優佳に会えないの?なんで?
「わかってるでしょ。わたしが言ったんじゃないか。」
なにを?
「言ったでしょ、優佳に。バイバイって。」
篠森優佳はわたしの親友だ。家が隣同士で幼い頃から一緒にいた。正反対な性格だから周りからはよく、なんで仲良くしてるのかきかれることも多かった。わたしはどっちかって言うと明るいお調子者で考えたことがすぐ態度に出るタイプだけど、優佳はおとなしい子で疑問に思ったことは色んな可能性を静かに考えるタイプだった。わたしもその影響を受けて有り得ないことでも可能性として考えるクセがいつの間にかついていた。でも、わたしは優佳の慎重に動けるところとか、おとなしいけど自分の意見をはっきり伝えてくれるところとかが大好きだったし、優佳もわたしといると新しい世界が広がっていくみたいと言ってくれていた。わたし達はお互いにお互いを尊敬していたし、一緒に過ごす時間が大好きだった。これからも一緒にいるんだと、それを当たり前のように考えていた。でも───
「私、引っ越すことになったんだ。」
え……。
突然だった。冗談やめてよ、って笑おうと思ったのに、真剣な表情してる優佳をみたらなにも言えなくなってしまった。なんとか声を出して優佳に引越し先を聞いた時、会おうと思って気軽に会えるような距離ではなかったから、頭が真っ白になった。会えなくなる。その事実だけが心に重くのしかかってきた。気持ちが追いつかない中、なにか言わなきゃと思って、わたしは間違えてしまった。
「…そう、じゃあもう会うこともなくなるね、バイバイ」
今まで出したことのないような冷たい声が出た。違う、わたしが言いたかったことはそうじゃない。バイバイなんて、言いたくない!はっと優佳の顔をみたら泣きそうな顔をしていた。わたしも、同じ顔をしてたと思う。ここにいたくない。優佳を置いて走って帰った。家に帰って謝らなきゃという気持ちになっていたけど、優佳に会ってもう一度あの辛い現実に向き合うのが嫌だったから、わたしは逃げた。
優佳にバイバイなんて言ったのあの時が初めてだったな。言う日がくるなんて思ってなかった。でも、だってもう優佳に会えないってわかってるのにまたねなんて言えない。言えなかった!!
あの日の優佳の顔が頭から離れなかった。こんなに悲しい別れがくるなら出会うんじゃなかった……。忘れてしまいたい。わたしは優佳と撮った写真を半分に破いた。涙がぼろぼろと溢れた。わたしが、関係を壊したんだ───
「あの日、わたしが走って帰った時優佳は追ってこなかった。優佳はわたしを嫌いになったんだよ。だからわたしも優佳のことなんて忘れてやるんだ。新しい思い出なんていくらでもつくれるんだから」
「…覚えてないの?」
「なにが?」
「優佳はあの日、わたしを追ってきてくれてたんだよ。優佳が運動苦手なの知ってるでしょ、わたしに追いつけるわけないじゃん。」
「たしかに…」
「優佳は、あんな別れ方でいいわけないってわたしを追ってくれてた。でも途中で…」
「途中で?なに、やっぱり諦めたんじゃん」
「走るのになれてないから足をもつらせて階段から落ちたんだよ。家で救急車の音をきいたでしょ」
……そうだ、あの日救急車がやけにうるさくて…でもそんなの気にならないくらい泣いてそのまま寝てしまった。次の日の朝お母さんから優佳が階段から落ちて病院に運ばれたことを聞いたんだった。
「わたしは自分が許せなかった。わたしと関わったために優佳はあんな目に…そう考えて無意識のうちに優佳のことを忘れようとしたんだよ。そして、誰とも関わりたくない、でもひとりはいやだという気持ちが、もうひとりのわたしをつくりだしたんだよ」
「わたし、最悪じゃん。じゃあ、なに、今見てる目の前のわたしも幻ってわけ?」
「そうだけど、そうじゃない。わたしが作りだしたわたしだから、実体はないけどわたしのなかにある。わたしの意思はあなたの意思だし、あなたの意思はわたしの意思。自覚してしまったからわたしはもう消えるけどね。間違えたんならやり直せばいいよ。わたしの親友を信じて」
そう言ってもうひとりのわたしは消えた。いやわたしのなかに戻っていった、って感じかな。
なにしてたんだろ、わたし。まだやるべきことあるじゃん。自分しかみえてなかったんだ、あの時は。ごめん、ごめん優佳…!走って会いに行くから!
「よし、行くぞ」
勢いよく自分の部屋を出て階段を降りる。靴を履いて玄関の扉を開けた。ゴンっと鈍い音が外でした。ん?なにかにぶつかったか?そーっと覗いてみると…
「優佳!?」
「痛た…あ、由紀。えーとおはよう…?」
「え!?あんた入院してたんじゃないの?!わたし会いに行こうとしてたんだけど…!!」
「え?!入院?!なんで?だれが?私?」
「だって…階段から落ちて救急車で運ばれたんでしょ…?わたしを追いかけて」
「階段から落ちたけど…3段くらいの階段だよ?救急車はわたしがこけたのにびっくりして近所の人が呼んだの。まさか3段の階段にこけて倒れ込むと思わなかったんだって」
「なんだよお…」
「心配かけた?ごめんね」
「謝らないで!謝るのはわたしの方…ごめん。
……あのさ、わたし優佳と話したい」
「私もそのつもりできたんだよ」
優佳はわたしにそう言って笑いかけてくれた。そして大きく息を吸った。ん?優佳どうした?
「ばか!!なんで私の話ちゃんと聞いてくれないの!バイバイなんて、聞きたくなかったわ!勝手に私達の関係を終わらせないでよ!いい?!あなたがなんていったって私はあなたとの関係を終わらせることなんてこれっぽっちも考えてないんだから!」
「優佳……ごめん、本当にごめん」
「ほんと、由紀って自分のことばっかりなんだから。人の話もろくに聞かないで突っ走ってくし。ばかよね」
むむ、その通りだけど…ばかとはなんだばかとは!!これは文句を言ってやらねば……
「ばかなんだから……」
「泣かないでよ、ばか…」
なんだか安心してわたしも泣けてきた。勝手に決めつけてごめん。離れても、わたし達の関係に終わりは来ないよ。
優佳が引っ越すことに変わりはないけど、あのまま別れることにならなくて良かったな。もうひとりのわたしに感謝感謝。どんなことがあっても、もう自分の気持ちを捨てたりしないよ。だから、もうひとりのわたしへ、ばいばい!
2/2/2025, 9:39:33 AM