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お題 君と
「一緒に逃げよう。二人で何処か遠くへ」
君はそう言って、僕に手を差し伸べた。僕達はもう、限界だったんだ。
自分の預金からあるだけのお金を引き出して、彼と終電前の電車に飛び乗った。車内はガラガラで、座っている人も電車が駅へ着く度にひとり、またひとりと降りて行った。そうして、この車両には、僕と彼だけのふたりきりになった。
「……」
「……」
僕達は、中学生同士で、同じクラスで、同性で、それで、付き合っている。お互いに本気で好きだから。これからも、ずっと一緒にいたいから。だから、僕は親に打ち明けた。優しい父と母ならわかってくれると思ったから。でも駄目だった。母には泣かれて、父には頬を思い切り叩かれた。
『子どもで何もわかってない。気の迷いだ。そいつには二度と会わせない。頭を冷やせ』
そう言われて外へ追い出された。母を泣かせた。初めて父に殴られた。ふたりに、わかってもらえなかった。悲しくて悲しくてぼろぼろと涙が止まらなかった。
『ごめん。駄目だった』そう、泣きながら彼に電話すると、彼はすぐに来てくれた。そして、僕を連れ出してくれた。
ガタン、ガタンと揺れる車両。僕は口を開く。
「……今更だけどさ、君の親も心配してない?」
「……俺も言ったんだよ」
「え?」
「付き合ってる奴がいて、そいつは男だって。……ありえないってさ」
「……」
彼は僕の手を握る。
「だから、俺達は逃げるしかないんだ」
「……うん。一緒に逃げよう。遠くへ」
ブー、ブー、とスマホの通知がまた入ってきた。電話の着信もメール着信も沢山届いている。でも、もういいんだ。僕はスマホの電源を切り、彼の肩へ寄りかかった。
今はただ終着駅へ向かうだけ。それから先なんて、何一つ決めてない。お金だって、子どものお小遣いじゃ大してない。きっと今の僕等じゃ、何処へだって行けっこない。彼もきっとそれをわかっている。だけど今だけは知らないふりをする。
彼も、僕も目を閉じた。終着駅へ着く少しの間だけ夢を見る。ふたりでとても遠くへ行って、幸せに笑い合う夢を。君と。
4/3/2025, 4:07:58 PM