"風邪"
「んん……」
瞼を開き、小さな呻き声を出す。
──今何時だ……?
首を動かし、目覚まし時計の液晶画面を見る。液晶には【AM5:01】と表示されていた。
──まだ時間じゃねぇのか。今日は午後からだし、今朝はいつもよりゆっくり準備出来るな。
起き上がろうと両腕に力を入れ上体を起こす。
「……っ」
突然脳が揺れたような感覚に襲われ、思わず片手で頭を抑える。
──なんか、ボーっとする……。
すると今度は寒気が来て、ぶるりと体を震わせる。
「……けほ、けほっ」
今度は急に肺から空気が迫り出してきて、それを吐き出す為の咳を二つ。
──なんか嫌な感じがする……。
片手で頭を抑えながら、緩慢な動きでサイドテーブルの引き出しを開け、体温計を手に取って電源を押して脇の下に挟む。
数秒待つと、ピピピっという電子音が鳴り響き、引き抜いて液晶に表示された数字を見る。
──うげ……。
数字を見て思わず顔を顰める。
「……」
──まぁ、見間違いかもしれねぇし……。
目を逸らし一旦見なかった事にして、もう一度見る。
液晶には変わらず【38.8℃】という数字が表示されている。
立派な風邪だ。
──くっそ……。体調管理を怠った事なんて無いのに、俺もまだまだか……。どこが甘かったんだ……?
考えを巡らせるが、一瞬で止める。
今は原因よりも、これからどうするかを考えなくては。
「どうすれば……」
──今日は午後からだし、午前中に下げればいいんだけど、この熱を午後までに下げるのは、流石にムズいか……。仮にできたとして、この咳はどうする?そもそもハナの飯どうしよ……。
立ち上がる事が難しい状態で、ご飯を用意するのは危険すぎる。下手すると大怪我、最悪頭を強打する事になる。
とりあえずこのまま上体を起こしているのは体に障るので、もう一度横になる。
「みゃあ」
枕に頭を預けたのとほぼ同時に、ハナが寝床から鳴き声を上げた。
「……おはよ」
喉が痛いせいか、いつもより声量が無く消え入りそうな声だった。
するとハナがケージから出てきてベッドの上に飛び乗ってくる。飛び乗ると俺の顔を覗き込むように近付いてきて、ベッドの中に潜り込む。
「なんだ?寒いのか?」
すると掛け布団から顔を出して、俺の首元を枕にしてきた。
「ハナ?」
「みゃん」
名前を呼ぶと短く鳴き、程なくして喉を鳴らしだした。
──なんなんだ、急に……。
一瞬不思議に思うが、すぐにその疑問が消え失せる。
「お前、俺を心配してんのか……?」
「みぃ」
そう聞くと返事をするように鳴いた。寝言のような声色だったが。
多分これは、ハナなりの心配なのかもしれない。
絵空事かもしれないが、そう思う事にする。
首元のハナの温もりに意識を向ける。
──……暖かい。
小さくてふわふわで、暖かい。生命《いのち》の温もりを肌で感じて、身体の不快感が和らいでいく。
──今日はどうするか決まってないけど、今はハナの温もりに身を委ねる事にしよう。
12/16/2023, 1:13:06 PM