NoName

Open App

moonlight〜北風と月〜


ある晩のことです。
北風が雲を蹴散らすように吹いていました。

「おや北風、相変わらず勢いがいいですね」と月が言いました。

「なあ月、なんで恋人たちは、お前ばかりチヤホヤするんだよ。月が綺麗だの、君の方が綺麗だの甘ったるい言葉を並べてベタベタくっつきやがって」

月は静かに笑いました。

「わたしは照らしているだけですよ。くっつくか離れるかは人間の勝手でしょう」
「ふん……なら俺と勝負しようぜ」

北風は不敵な笑みを浮かべて言いました
またかよ〜と月は思いました。北風は勝負が好きで、何かにつけて勝負を挑んでくる面倒くさいやつなのです。
でも月はそんなことを顔には出しません。にっこり優雅に笑いました。

「勝負ですか?」
「あの湖のほとり。あそこに人間の恋人たちがいる。あの二人、恋人同士なのに、お互い遠慮しあってまだ手も握らないんだぜ。俺たちの勝負は、どちらが恋人たちをよりピッタリとくっつけられるか!見てろよ俺の吹きっぷり」

北風は得意げに胸を張り、月の返事も聞かずに地上へと降りていきます。
「ホント好きだよなあ……」と月はそっと雲の陰から顔をのぞかせて見守りました。

──ピュウウウウゥ。
北風が吹くたび、恋人たちは寒さに震えて肩を寄せ合います。寒い寒いとくっついた恋人たちを見て北風は大喜びです。

「見ろ、あいつらくっついた、俺の勝ちだ!」

けれど北風が吹いたおかげで雲は切れ、月がその姿を表しました。湖に月の光が映し出されていきます。月の光はキラキラと夜の湖を静かにゆっくりと輝かせていきました。
それを見た恋人たちは顔を見合わせました。

「月の光って素敵ね」と恋人の一人が言いました。
「君の方が素敵さ」ともう一人が言いました。

二人の頬が赤く染まります。北風は舌打ちをしました。やがて恋人たちは静かに口づけを交わしました。

「くっそ」
「……おや、この勝負、私の勝ちということでよろしいですか?」

月が微笑むと、北風はふてくされた顔になりました。

「ちぇっ!どいつもこいつも月の光に魅せられやがってよー月が出たらおしまいだ!」

そう言うと北風は空の端へと飛んで行きました。
北風が去っていった後を、月は少し寂しそうに眺めて言いました。

「すぐ行ってしまうんだから。落ち着きのないやつ……なんでいつもあんなに最初から全力なんだろ。そよ風くらいにしたら、あの恋人たちにも君の優しさが伝わるのに」

北風が去った後、夜の空は静かです。
湖のほとりでは恋人たちがまだ口づけを交わしていました。

おわり

🌖童話「北風と太陽」のパロディです🌬️🌚

10/5/2025, 12:31:22 PM