海月 時

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「別れよう。」
私が最も恐れた言葉を告げたのは、私だった。

「…この前、余命宣告されたんだ。」
彼は徐ろに、そう告げた。街は暖かさに包まれ始めているというのに、私の手は震えていた。

私と彼の出会いは、公園だった。その公園の近くには病院があり、患者らしき人が多く見られるが静かなので、私のお気に入りスポットだった。そこで、私は彼に出会った。彼はどこか儚くて綺麗だと思った。正直、一目惚れだ。
「付き合ってください!」
気付けば、そう彼に言っていた。そんな珍行動を彼は邪険にせず、笑ってくれた。絵画のようだった。

それから、私達は友人として会うようになった。彼は病院の患者らしく、暇な時はいつも公園に来ているらしい。
「ここは静かで良いよね。騒がしいのも好きだけどさ。」
彼は微笑みながら、そう言っていた。失礼だけども、きっと彼の儚さは病人というのもあるのかもしれない。

「好きです、出会った時から。付き合ってください。」
二度目の告白も私からした。今度は彼は、受け取ってくれた。やっと恋人になれた。それなのに、私達の関係は終わりに向かっていった。

「別れよう。今までありがとう。」
私から言ったんだ。私の願いとは真逆の告白を。だって知っているから。彼が病室で泣いている事を。その内容が、私への懺悔だった事を。だから、別れを告げた。これ以上彼を苦しめないように、泣かせないようにするために。
「…ごめんね。僕のせいで。」
彼は泣いた。あぁ、泣かせたくなかったのにな。
「ありがとう。本当に大好きだよ。」
彼は私を抱きしめた。彼の腕の中は温かった。

私はきっと最低だ。彼の笑顔も、涙も、あの日の温もりも忘れられずにいる。私から別れを告げたのに、まだ彼に恋をし続けている私は、自己中の化身だ。

2/28/2025, 1:30:34 PM