"ススキ"
わたしがいつも通る通学路にはススキでいっぱいの丘がある。最近は秋も深まってきて丘は淡い金色に染まっている。
「そういえばススキって中が空洞だから神様が宿ってるんだっけ?」
『ふふふ、流石にそこには入れないわね。ちょっと狭そうだもの。』
突然後ろから声が聞こえ、慌てて振り向くと息を呑むほど美しい女性が立っていた。淡い色の着物を身に纏い長い髪を揺らしながら近づいてくる。
『急に声をかけてしまってごめんなさいね。面白いことを言っていたものだからつい』
「えっと、、」
『あ、自己紹介がまだだったわね。私はあなた達の言う'神様'というものよ。この辺りの人たちは白葉様と呼ぶわね。ほら、あそこのお社に住んでいるの。』
女性はそう言うと丘の向こうにある小さな神社を指さした。いやそれより、今なんと言った?カミサマって、神様?疑問が多すぎて、考えていると思考が停止してしまった。
『あ、あら?どうしましょう、固まっちゃったわ。お〜い』
「あ、すみません。」
『ああ、良かった。別にいいのよ。こんなこと急に言われても信じがたいわよね。』
「いえ!お姉さんが嘘をついているとは思っていません!えっと、白葉様。」
『あら、お姉さんだなんて。嬉しくなっちゃうわ』
嬉しそうに顔をほころばせた白葉様はその後いろいろなことを聞いてきた。学校のこと、家族のこと、習い事のこと、趣味のこと、好きな植物のこと。気づけば日は沈み月が出ていた。
『名残惜しいけれど、そろそろ帰らないと家族が心配するわ。あなたの家族に迷惑をかけるわけにはいかないもの。』
「あ…あの、また会えますか?」
『そうね、私もまたお話したいのだけど、、色々と条件が揃わないとお社の外には出られないのよ。だから気が向いた時私のお社にいらっしゃい。お話はできなくてもあなたのことは見守っているから。次出られた時は私から会いに行くわ。」
白葉様がそう言った時強い風が吹き、思わず目を瞑る。次目を開いたときにはすでに彼女の姿は消えていた。
今でも時々思い出す、あの不思議な体験を。あの時共有した時間は私にとってかけがえのないものであり続けた。あれ以降白葉様が姿を表すことは一度もなかったが、思い出すたびにススキをお社に持っていった。
今日もススキを持ってお社を尋ねる。またあなたと出会えますように。
‐ススキ‐【Miscanthus sinensis】
花言葉「心が通じる」
11/10/2024, 1:54:23 PM