せつか

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ある日の雨上がり。
まだ灰色が残った薄水色の空に虹がかかっていた。
先にそれを見つけたのは君。
その指先を追って僕もようやく虹を見つけた。
「虹は吉兆とか凶兆とか色々言われてるよね」
君が言う。
「根元に宝物があるとか、虹が出たら災いが起こるとか」
「ただの自然現象だよ」
僕がそう言うと「私もそう思う」と、君は答えた。
「虹が出来る理由は科学的に説明がつくからね。根元には行けないし、行けたとしてもそこに宝物なんて無いし、いいことも悪いことも虹には関係ない」
それでも虹から目を離さずにいる君を、僕は横目で見つめる。
「そこに何かを見出すのは、見てる私達の心がそれを望むからだよ」
吉兆も、凶兆も。
「じゃあ何も感じない僕達は何も望んでないってことかな」
「今は、そういうことなんじゃない?」
君の言葉の意味が、その時の僕には分からなかった。

◆◆◆

虹の橋が一本、空に渡されている。
僕はそれを見上げながら、いつか君と虹を見た日を思い出した。
「あの虹の橋を渡った先に、いなくなってしまった大切な人がいるんだよ」
祖母が言っていた言葉だ。
ただの自然現象だと分かっているのに、なぜ不意にそんな言葉を思い出したのか。虹には触ることも出来ない。ましてや渡ることなんて。
分かっているのに、そんな言葉を思い出してしまうのは·····。
「見てる私達の心がそれを望むからだよ」
ああ、そうだ。
あの時の君のちょっと得意気な顔。
伸ばした指の細さ。
今もはっきりと思い出す。

いなくなってしまった大切な君が、あの虹の橋を渡った先に、いる気がして。

僕は傘を畳んで辿り着けるはずもない虹のふもとに向けて歩き出した。


END



「君と見た虹」

2/23/2025, 5:23:15 AM