緋鳥

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(残酷表現、怪我表現。暴力表現注意)


 気がつけば私の体は宙に浮いていた。
 酷くゆっくりと感じるのは、今から死ぬという事実を脳が処理できていないからだろう。
 壊れたフェンスと共に、私の体はゆっくりと屋上から地面へと落下し始める。宙へと倒れ込む私を、三人は呆気に取られた顔で見ている。
 今まで散々、「落としてやる」「飛び降りろ」「動画撮るから早く落ちて」と楽しげに高い声で私に迫っていたが、いざ私が抵抗して、一人が私をフェンスへ突き飛ばしたら、思ったより勢いがあって、私はバランスを崩してフェンスに倒れ込んだ。

 そこがたまたま錆びたフェンスで。
 たまたま私の体重を支えきれず根本から折れて。
 酷く耳障りな音と共に私の体は宙にあっさりと投げ出されて。
 とても青い空が、目に映って。
 三人のポカンとした顔がとても面白い顔で。

『あ』

 その場の全員が同じ言葉を口にした。

 刹那。

 風を切る音が耳元で流れる。体が、落ちていく。
 屋上が遠くなる。景色が流れる。
 死ぬな、と思った。嫌だ、とは思わなかった。

 いつも、死にたいと思っていた。
 一人でこっそり首を吊ろうとした。
 一人で刃物を手首に当てた。
 一人で川の上の橋から川面を見下ろした。
 だがいつも、出来なかった。
 あと一歩が踏み出せなかった。
 それが、こんな、簡単に、しかも、誰かの手で死ぬとは。

 落ちる。
 ああ。死ぬのは案外簡単なのだと思った。

 最後に見たのが、私を苛めていたあの三人の間抜けな顔で、笑えた。

 そう思った刹那。

 潰れる音。割れる感覚。折れる音。裂ける。折れる。砕ける。潰れる。裂ける。鉄の味。激痛。激痛。痛い。痛い、いた、赤い。あか。あか。黒。くろ。

 ヒュ、と、無意味な息が、最後だった。

4/29/2024, 9:02:02 AM