余・白

Open App

短編「蝶を握る」
作 余白

登場人物
❀日野 雷花(ヒノ ライカ)‥紘の初恋の相手
❀砂川 紘(スナカワ ヒロ)‥雷花が心を許す後輩

「またね、紘くん」

まつ毛の先に見えた蝶は幻覚であった。
が、僕にはそれが本物にしか見えず、指先で掴もうと手を伸ばした。

「紘くん」

揺れる声で意識が戻る。
僕の指先は彼女のまつ毛に触れ、涙が溢れ出していた。
どうしても届かない、この人の奥底にはどうしても触れられないのだと理解する。
深い深い悲しみに、僕は溺れていった。

「ふふっ。またね!」

彼女は僕の全てだった。溶かしていった心をどうにもしてくれないまま、僕の元を去った。
桜がひらひら舞う春のあの日、彼女を生涯恨むことになるとそう感じた。

𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

「結婚しよう」

「え?」

「結婚しようよ、紘くん」

大きな目に吸い込まれた僕は、
彼女以外のなにも目のうちに入れることができない。
彼女が好きだと言った色の絵の具で、今日も絵を描いている。

「だって相性いいと思うの、私たち。
ほら、掃除が苦手なのが一緒でしょ?
結婚したって喧嘩にならないじゃないの」

訳の分からない彼女の言葉を解読したくないと思った。その純度のまま脳から全身に送り込み、血液にしてしまおうと思った。これが証明、僕が彼女を好きであることの証明だ。
僕の飲んでいたオレンジジュースを手早く奪うと、全て飲み干して彼女が笑いかけてきた。

「きめた、紘くんは私が好き。
ね、好きでしょう?」

𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

''好きな人がいるの、だから帰るんだ東京に。''

どうやら僕は彼女と結ばれることは永久にないらしかった。蹴り飛ばそうとした石ころを拾い上げて思いきり投げると、ゴツん、とどこかの家の窓にぶつかった。その音が妙に不快で、僕の心は混乱した。
一体僕は、何に苛ついているのだろう。

「嫌いです、先輩のこと」

僕の蝶は、僕の成長を待ってはくれない。

「‥そう、そっか。

私はふられちゃったみたいだね」

えへへ、と笑う彼女に僕は冷たい眼差しを向ける。
なんというずるい蝶、僕は二度と恋なんてするものかとそう思った。
やけに大事そうに見えた薬指のリングは、彼にもらったものなのだろうか。所詮僕は蝶に踊らされる子供でしかないみたいだった。
そうか、僕は悲しかったんだ。彼女が僕を好きにならないという事実だけが、永遠に僕を蝕んでいく。

青い空にひらひら舞う蝶々をみつめながら、伸ばした指先で握りつぶしてしまいたいとそう思った。



𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄


こんばんは‥☪︎ 余白です。

今日は月曜日、週初めですね。
皆様お仕事、学校、お疲れ様です。

疲れましたね、ゆっくり休んで癒してください。

悲しさややるせなさは、ときどき夜に突然やってきて覆い被さってきたりします
重いよ〜といっても、なかなかどいてくれなかったり


そんな夜はちょこっと悲しみに浸ってみるのも悪くないかなと最近思います


皆様の一週間が素敵なものになりますように‥*̣̩⋆̩
頑張りすぎず、時には休みながらゆっくり行きましょうね


それでは、また*★¨̮

3/31/2025, 1:19:49 PM