白玖

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[ルール]

気怠げな空気の中で、貴女は緩慢な動きで俺の手に触れる。
「どうかした?」
「……違うなぁ、って思ったの」
「違うって、何が?」
「あの人の手と、君の手は違うなぁ、って」
「どう、違うの…?」
「君の手は私を愛してくれる、やさしい手。大好き」
貴女と目が合い、どちらともなく唇を重ね合わせる。
ただ唇を重ね合わせるだけの子供騙しの口付けが、さっきまでの行為よりも気持ちが良くて、ずっとこうしていられたらいいのに。
「俺も貴女の手が好きだよ」
この指先で求めている人が俺じゃないとしても、貴女が俺を捨てたとしても貴女を愛し続ける。想い続ける。
隣に居られなくても、触れられなくても、俺は貴女が好きだよ。きっと二度と貴女以上に愛せる人と出会えない。
(だから、どうか……)
彼女に俺の想いが悟られませんように。
そして、どうか。

どうか、俺への罪悪感を貴女が抱きませんように。


『ルールを決めようよ』
『そう、私達の中の唯一で、絶対的なルール』
『何かって?』

『別れる時は、必ず私を憎むこと』

4/24/2023, 1:30:36 PM