とある恋人たちの日常。

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 好きな人が出来ました。
 
 車やバイクを修理してくれるお店で、誰とでも気さくに話してくれる楽しい人。
 初めて修理をお願いした時は、女性が多いお店で驚いた。でも、その驚きと戸惑いを簡単に払拭してくれた人。
 
 見た目は色白で透明感の強く、儚さがあるのにそんな感じを微塵にも見せず、仕事の手際も良いし、不明点はすくに聞いてくれる。
 
 後日、またそのお店に行ったら、体験をしている人に丁寧な説明をしている姿を見た。
 
 そして気がついた。彼女がくれる請求書は「ありがとうございます」と一言添えてくれている。
 細やかな気遣いに、心惹かれるのも時間はかからなかった。
 
 彼女に会いたくて、またお店に行く。
 
 すると、この都市の救急隊員が、彼女と話をしていた。自分もよくお世話になる青年。確かモテると聞いたことがある。
 
 そして、彼女を見ていたから分かった。
 ふたりの距離感が違うということに。
 
 彼女が青年の車を修理したのか、請求書を渡していた。受け取った後も、軽く話をしている。
 請求書を見て、青年が彼女と話を広げていた。つまり、彼女が請求書に一言書くのに気がついている人だ。
 
「ありがとう。じゃ、また家でね」
「はーい! そっちこそ、お仕事、頑張ってくださいね〜」
 
 そうこうしている間に、青年は車に乗って走り去って行った。とんでもない爆弾を残した気がする。
 
 呆然と二人を見ていると、自分の車を直してくれていた、会社の社長が声をかけてくれた。
 
「あの二人、仲ええよね」
「え!?」
「あの二人を見てたんちゃうの?」
「あ、はい、仲良さそうだなと思って……」
 
 思わず話を合わせてしまった。
 
「狙ったらアカンよ」
 
 冗談に聞こえるように話してくれているが、どこか静かに伝えてくる社長の言葉。自分に対してクギを指しているのだと理解した。
 
「付き合っているんですかね」
 
 女社長は笑顔で答えた。
 
「一緒に暮らしとるよ」
 
 脳内に硝子が割れる音が響き、その音に胸が締め付けられた。
 
 
 
おわり
 
  
お題:失恋

6/3/2024, 10:28:34 AM