ハルりん🌻🍀

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#秘密の標本

静かな雨が降る午後、東京の片隅にある古びた博物館に、ひとりの青年が足を踏み入れた。名前は佐伯悠人。大学で生物学を専攻する彼は、教授から「とある標本を調査してほしい」と依頼されていた。

その標本は、一般公開されていない地下保管庫に眠っていた。案内された部屋は薄暗く、棚には年代物の瓶や剥製が並んでいる。だが、悠人が目を奪われたのは、中央のガラスケースに収められた一体の小さな生物だった。

それは、見たこともない形状をしていた。昆虫のようでありながら、羽は鳥のように繊細で、目は哺乳類のように感情を宿している。ラベルにはこう記されていた。

「標本番号:X-13 採取地:不明 採取者:不明 分類:未定」

悠人はその標本に奇妙な既視感を覚えた。夜になっても頭から離れず、夢の中でその生物が彼に語りかけてくるような錯覚に陥った。

数日後、彼は博物館の記録室で古い日誌を発見する。そこには、戦前に活動していたある学者の記録が残されていた。学者の名は「白川恭一」。彼は幻の生物を追い、南米の奥地へと旅立ったまま消息を絶っていた。

日誌の最後のページには、震える文字でこう記されていた。

「X-13は、ただの生物ではない。これは“記憶”そのものだ。人の過去を喰らい、形を変える。私の記憶も、もうすぐ消えるだろう。」

悠人は愕然とした。あの標本は、誰かの記憶の化身なのか? それとも、もっと深い何か——人間の存在そのものに関わる秘密なのか?

彼は決意する。標本X-13の正体を突き止めるため、白川が消えた南米の地へと旅立つことを。

だがその夜、彼の部屋に標本が現れた。ガラスケースの中にいたはずのそれが、悠人の机の上に、まるで最初からそこにいたかのように佇んでいた。

そして、悠人の記憶が、少しずつ消えていった。

11/2/2025, 2:10:33 PM